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第10章 王子さま22

「嘘をつかないでよ。それ、おじさんがやったんでしょ? あのときみたいに」  日向は空の言葉に答えず、視線をさまよわせた。 「答えてよ、日向くん」  切羽詰まった調子で空は日向を問い詰めた。  とうとう日向は観念して、大きくため息をついて項垂れた。 「悪いけど、見なかったことにしてくれないかな? このことはさくちゃんには、黙っておいてもらいたいんだ」 「なんで? 朔夜くんは日向くんの魂の番で、恋人じゃない。絶対に言うべきよ。第一これ、病院で診てもらったほうがいいんじゃ……」 「お願いだから黙っていてよ」と日向は切実な声で空に訴えかけ、両手で顔を覆った。  空は、日向の真意が読み取れず、眉を寄せる。 「どうして朔夜くんに伝えないの? ……私には、すぐに助けを求めても助けてくれる人はいない。お継父さんは仕事で忙しいし、お兄ちゃんもお継母さんになってからぜんぜんやさしくない。お手伝いさんたちだって、見て見ぬふりをしているだけ。いとこの女の子たちが私を本当の家族のように扱ってくれたけど、みんな東京にいる。電話やメール、手紙だってお継母さんの邪魔が入って、ろくに連絡が取れないのよ。  でも、日向くんには、魂の番であるアルファがすぐ近くにいる。朔夜くんは、日向くんの絶対的な味方なのよ!? 『黙っていて』って言うんだったら、せめて理由を教えて」 「だって……僕が悪い子だからいけないんだよ」と日向は血塗れになり、絆創膏の貼られた手で拳を握る。 「いとこのお姉さんたちみたいに、お父さんとうまくやっていけない。お父さんの癇に障ることばかりして、いつも怒らせている。なに一つ、お父さんの望むことができないんだ」  日向は、聖職者に向かって(ざん)()をする罪人のように、胸の内を空へ()()した。 「それに――僕が傷つくたびに、さくちゃんは無理をする。そうやって僕の行動の一つ一つが、彼を追いつめているんだ。いつだって、さくちゃんに悲しい顔や、怒った顔をさせて、悩ませてばかりいる。さくちゃんの負担になっているだけ。恋人失格だよ」  まるで、この世の終わりがすぐそこに差し迫っているような態度を日向はとった。 「そうかな? 私は、そうは思わないけど」  まるで、この世の終わりがすぐそこに差し迫っているような態度をとる日向に「そうかな? 私は、そうは思わないけど」と空は答える。つとめて冷静な様子で彼女は日向の言葉に反論し、朔夜が日向には伝えていない真実を告げる。 「朔夜くんが王さまになったのも、お兄ちゃんたちが悪いことをしないように押さえているのも、日向くんが望む優しい世界をつくりたかったからよ」

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