112 / 150

第11章 無力1

 ――朔夜はすこぶる機嫌が悪かった。  車に乗せられ、校庭へ帰ってきた日向と空の姿を目にしてから始終無言で、どす黒いオーラを放っていた。  日向も日向で閉会式に参加してから朔夜に話しかけられるのを、わざとかわしていた。火に油を注ぐも同然の行為だとわかっていて、そういう態度をとったのだ。  ますます朔夜の機嫌は悪くなる一方で、子供たちは「これはまた大げんかが始まるな」と予感し、教室に充満している息苦しい雰囲気が早くなくなることを内心で願っていた。  給食を食べ終え、昼休みになった。  子供たちは午前中マラソンで走ったために疲れ果てていた。中には外に出て雪合戦をする者もいたが、多くは教室の中でしゃべったり、昼寝をしたりと各々好きなことをやっていた。 「午後の授業、絶対に眠いよね。ぼく、途中で寝ちゃいそうだなー」  大きな欠伸をして鍛冶は机に突っ伏した。  茶色い紙のブックカバーがかかった文庫本を手にした疾風はそんな鍛冶を横目で見て、呆れ返る。 「おまえが午後の授業で居眠りしなかったことが一度でもあったかよ? いつも、うたた寝をしているだろ」 「ひどいな、疾風くん! ぼくが、うたた寝なんてするわけないじゃないか!? いつもちゃんと受けて……でも、途中で先生に頭を叩かれちゃうんだよね。なんでだろ?」 「ああ、そういうことか。納得だ。おまえ――授業をちゃんと受けている夢を見ているんだな」 「ええっ!? そうなの?」 「いや、そんなの知らないって。オレに聞くなよな……」  そんな二人のやりとりを、席について日向が笑って見ていれば、朔夜がやってくる。  バンッ! と日向の机に両手をつき、日向の目を見つめる。 「いい加減にしろよ、日向。いつまで俺のことを無視するつもりなんだよ?」  教室内にいた子供たちは、とうとう始まるか……とゴクリとつばを飲んで、二人のことを静観した。  日向はすっと視線を下にして、朔夜から顔を背ける。 「何? 無視なんてしていないよ」 「だったら、なんで俺が話そうとすると逃げるんだよ」 「たまたまだよ。話があるなら、ここで聞くよ」 「ここじゃできねえ。二人だけで話してえ」  日向は朔夜を一瞥して、すっと立ち上がると廊下に向かって歩き出す。 「……悪いけど、今はそういう気分じゃないの。あとにしてもらえないかな?」  朔夜は日向の手首を摑み、疾風に声をかける。 「悪い、疾風。日向のことを借りてくぞ」 「ちょ、ちょっと、さくちゃん!?」  日向は朔夜の手を振りほどこうとするが、朔夜は離そうとはしなかった。

ともだちにシェアしよう!