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第11章 無力3

「暴れるんじゃねえ、大人しくしてろよ」  そうして朔夜は日向のワイシャツをスラックスのズボンから出し、セーターごとワイシャツシャツを胸元までたくし上げる。 「やだ、やめて……!」  朔夜は日向の肌を目にして動きを止めた。  日向は目をつぶり、歯がゆそうに唇を嚙んだ。  これでもかと目を大きく見開いて、朔夜は日向の身体を凝視した。  象牙色の肌は変色してところどころ青くなったり、緑色や紫色になっていた。日向の上半身に無数の痣があったのだ。 「なんで黙っていたんだ。こんなにひどい怪我をしていたのに……なあ、なんでだよ?」  怒りを滲ませた声で朔夜は日向に問いかけたが、日向は顔を俯かせ、返答しなかった。 「無理をするなって言っただろ? なのに、なんでむちゃをしたんだ?」  ギュッと日向の服を摑む手に力を込める。  ゆるりと日向は顔を上げ、お日さまのような笑みを浮かべた。 「大丈夫だよ、ちゃんと痛み止めも飲んできたんだ。薬なら、ちゃんと効いている。だから空ちゃんを運ぶことができたんだ。身体だって動くし――」 「そういうことを言っているんじゃねえ!」  朔夜は怒鳴ると両手を動かし、日向の二の腕をしっかりと摑んだ。 「やっぱり嘘をついていたんじゃねえか! おまえだって人のことを言えるような状態じゃねえのに、どうしてそんな状態で大会に参加したんだ? なんで空のことを助けたりした!?」 「いやだな、さくちゃんったら。嘘なんかついていないよ? 見た目はひどいけど、そこまで痛くないんだ。薬もよく効いているから、平気。それに僕はオメガといっても男だよ。目の前で女の子が困っていたら助けるのは当たり前――」 「嘘ついてんじゃねえか」  意表を突かれた日向は身体を揺らし、笑顔のまま固まった。 「そんなにひどい怪我をして、しんどくねえだと? んなわけがねえだろ! どんだけ薬を飲んだ? 規定以上の量を飲んだんだろ!?」 「それは……!」  すぐに朔夜の言葉に反論をしようとしたが、日向は言葉が見つからずに口ごもった。 「薬も過剰に接種すれば毒になる。おばさんや俺にその痣を知られたくなくて、臭いで気づかれないように消炎鎮痛剤も塗らなかったんだな」  日向は口をぎゅっと閉ざし、眉間に深いしわを刻む。 「放課後の補習はやめとけ。大林先生にまた後日にしてもらうように頼め。先生なら事情をわかってくれる。だから――」 「……ううん、出るよ」 「はあ?」  怪訝な顔つきをして朔夜は訊き返した。 「空ちゃんを背負ったからって時間内にゴールできなかった理由にはならないよ。せっかく先生が厚意で周回数を三分の一にまで減らしてくれた。それを無駄にはできない。今日、走るよ」

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