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第11章 無力4

「馬鹿を言うな! もっと自分の身体のことを考えろよ! どうせ全身、痣だらけなんだろ? 今はよくても、あとで後遺症が出たりしたらどうする!? 」 「そんなこと――さくちゃんにいちいち指図されたくないな」  日向は朔夜の拘束を自分で解き、困惑している朔夜のことを睨みつける。 「昔だったら、ドジでおっちょこちょいな日向でやり過ごせた。山道でこけたとか、階段から落ちたって言い訳ができたよ。でも……今、この状態を知られたら、大人たちから虐待を疑われる」 「当然だろ。おじさんがおまえにやっていることは、(しつけ)の領分を超えている。ただの暴力だ。虐待だろ? 光輝たちのことを擁護するわけじゃねえけど、おまえだって、おじさんが普通じゃないことはもう気づいているはずだ」  日向は朔夜の言葉に拳を握りしめた。 「責められるのは、お父さんだけじゃない。お母さんまで責められることになるんだよ?」  朔夜は足元に視線をやり、「それも仕方がねえことだろ」と明日香の鈍感さを苦々しく思いながら告げた。 「仕方のないこと? 仕方のないことじゃないよ! 夫婦のどちらかが子供を虐待していたら、虐待をしていなかったほうも世間から糾弾されるんだよ? 『おまえは何をやっていた? 子供のことをしっかり見ていなかったのか? 子供の虐待に気づけなかった・気づかなかったおまえも同罪だ』って」 「そんなことはわかっている」 「わかっていない。さくちゃんは何もわかっていないよ! お母さんはオメガなんだよ!? オメガは(いん)(らん)で頭が弱いとか、アルファなしでは生きられない役立たず。社会のごみって扱いを受けやすいんだ。オメガとして生まれたことは罪でもなんでもないのに……バース性がオメガだっていうだけで、世間の風辺りはきつい。僕のこの状態を知ったら、お母さんはこの町にいられなくなっちゃう!」 「じゃあ、このままおじさんのやっていることを隠すつもりかよ? 加害者を庇うのか? おまえは、おばさんやまわりのやつらに嘘をつき続けるのかよ」 「そうだよ」と日向は、さも平然とした様子で答える。 「空ちゃんや光輝くんのおうちみたに、ご近所さんもいなければ、お手伝いさんもいないからね。山の上にぽつんと建った一軒家だ。僕さえ黙っていれば、虐待は実証できない」 「なんだよ、それ? おじさんのやっていることを肯定するのか? そんなのぜってぇおかしい。おじさんがおまえにやっていることは間違っている。弱い人間をいじめて、楽しんでいるだけだ!」 「間違っているとか、間違っていないとか、そんなのは問題じゃない! 番契約をしたアルファはオメガにとて生命維持装置と変わらない。唯一の命綱なんだよ!? 子供のいるオメガがアルファと離婚を理由に番契約を解除するとき、忘却のレテを使用するには多額のお金が必要になるって知っているでしょ?」

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