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第11章 無力5
「なんでだよ? おじさんは公務員だろ! うちの親父みたいに自営業でもなければ、借金もねえはずだ! おばさんだって非正規雇用とはいえ、フルタイムで働いている! なのに、なんでできねえんだよ!?」
エリートの母親や兄、祖母を持ち、両親から一心に愛情を受けてきた朔夜に対して、日向は冷笑を浮かべた。
「さくちゃんのお母さんはアルファだもんね。アルファは子供がいても正規雇用で安定した職につけるけど、オメガはそうはいかない。アルファやベータのようには、お金をもらえないんだよ? それにお父さんが、僕やお母さんのためにお金を使うと思う? 全部自分のために使っているよ。それどころかお母さんが働いたぶんのお金すら吸い取っていく。
それでも“子は鎹 ”だ。僕が我慢すれば、お母さんは幸せでいられるんだよ」
「ふざけんな!」
朔夜は声を荒げ、頑固な日向に対しての怒りをぶつける。
「おじさんは、おばさんやおまえを不幸にしてるだろ! 外に他の女や男を作って、家にもろくに帰らねえで、帰ったと思ったら子供を虐待して、金も家にいれねえだと? 妻であり、番であるオメガに負担ばかりをかけて何も感じねえ。そんなやつはアルファの風上にもおけねえよ! おばさんだって、おじさんのやっていることを薄々気づいて――」
「やめてよ!」
朔夜は日向が大声で叫んだことに驚愕し、思わず口を閉じた。
「それでもお母さんはお父さんのことが好きなの! 愛しているんだよ!? お母さんの幸せを奪わないで!」
「だったら、俺はどうすればいい? 魂の番であるオメガが――恋人がむざむざ傷つけられて、殺されるかもしれねえのを。ただ指を加えて見てろって言うのか!」
「僕は死なないよ。お父さんはそんなことをしない! 僕が悪い子だから、お父さんから愛されないの……僕がいい子になれば、お父さんも僕を見てくれるようになる。お母さんのことも、もっと大切に……」
「本当に馬鹿だな、おまえ」
哀れみを含んだ目で朔夜は日向のことを見つめた。
「昔とぜんぜん変わってねえんだな。おじさんは、おまえのことを愛していねえ。大切に思っていたら、こんなに痣だらけになるまで殴ったりしねえよ。何回も殺されそうになっているのに、どうして現実を受け入れねえ?」
「いい加減にして、そんなことをさくちゃんに言われたくない! 恋人だからって言っていいことと悪いことがある。結婚相手でもなければ、番でもない人にそこまで言われる筋合いはないよ!」
ひゅっと息を呑んでから朔夜と日向の間に沈黙が訪れた。
日向は拳を震わせて涙目になりながら、朔夜のことを睨み続ける。
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