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第11章 無力8

「重いんだよ! さくちゃんのそういうところ煩わしくって、面倒くさくいんだよ!」  朔夜は日向の言葉を耳にすると表情の抜け落ちたような顔をする。日向の手首を摑んでいた手を放し、頭を横に向ける。 「おまえは俺の気持ちを迷惑だって、そう思っていたのかよ」 「そうだよ! 迷惑きわまりないんだよ!」  とうとう心にもない言葉を言ってしまった……。  内心頭を抱えるが、日向の口は彼の意思を無視して動き続ける。 「さくちゃんだって普通の男の子といっしょで、本当は女の子のほうがいいんでしょ? おばさんは例外だとしても叢雲の子なんだから、いつかはアルファの女の人と結婚しなきゃなんだよ? そうしたら、僕のことをどうするつもり? 公式の愛人にでもして囲うの?」  朔夜はもう何も言わなくなっていた。口を真一文字に結び、ただ静かに日向の言葉に耳を傾ける。 「僕は、さくちゃんのおままごとにつきあってあげているだけ。愛人だなんて絶対にいや、ならないからね! そんなのになるくらいなら、死んだほうがましだよ! 第一もしも僕が、さくちゃんと同じアルファだったり、ベータだったら恋人になっていた? 僕のことを好きになってくれたの?   さくちゃんは僕のおなかに子宮があって女の子みたいに子供を生むことができるから、〈魂の番〉であるオメガだから僕のことを好きだって錯覚しているだけ。そうじゃなければ見向きもしないくせに……!」 「そうかよ。おまえは俺の気持ちをそうやって疑っていたのか。あのときからずっとそうだよな」  冷たい口調だった。  急に血の気が引くような心地になった日向は理性を取り戻し、朔夜に謝ろうとするがあとの祭りだ。 「ちが……さくちゃん……」 「そういうふうに思われても仕方がねえよ。だって、おまえの気持ちを試すような真似をしたのは、間違った選択をしたのは俺なんだから。そのせいで、おまえにひどいことをして傷つけたんだ……悪かったな」  朔夜は日向に背を向け、スタスタと速歩きをする。「待って、さくちゃん!」と日向が朔夜を呼び止める声は、朔夜が倉庫の扉を開ける音でかき消されてしまう。そうして朔夜は日向を置いて、倉庫から出ていってしまった。  朔夜に嫌われた。  へたりとマットの上に座り込み、日向は茫然自失する。  ――いいじゃないか。嫌われてもしょうがない。それくらいひどいことを言ったんだ。さくちゃんの隣に立つのは、お似合いなのはアルファの女の子であって、男の僕じゃない。  そう自分に言い聞かせ、ズキズキと痛む胸を両手で押さえながら、両膝を見つめる。

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