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第11章 無力9

「どうしよう……明日から、どんな顔をして会えばいいんだろう……?」 「なんのことだよ」  木の箱をわきに抱えた朔夜が倉庫の扉を開け放つ。  これでもかと目を見開いき日向は、あいかわらず不機嫌そうな様子でいる朔夜のことを凝視する。 「どうして……? てっきり、もう戻ってこないと思っていたのに……」 「なめんじゃねえよ。おまえを一人で放っておけるわけねえだろ!」  ズカズカと歩いてきたかと思うと朔夜は日向の隣にドカッと座り、保健室から借りてきた薬箱を開ける。 「俺が止めても放課後のマラソンの補習に出るつもりなんだろ? かといって保健室に行けば、先生に虐待を怪しまれるかもしれねえ。その痣のことをおばさんやほかの人に話すつもりも、病院に行くつもりもねえんだろ。かといって、おまえは自分で最低限の治療もしねと来た。だったら俺が看るしかねえだろ?」 「なんで? どうして、そこまでするの!? 僕は、君にいっぱいひどい言葉を浴びせて傷つけた。……わざとやったんだよ? 嘘だってついたし、さくちゃんの助言も聞かない。普通は、そんな恋人のことを嫌いになるんじゃないの? 嫌いにならなくても放っておくよ!」 「ああ、そうだな」と朔夜は眉間にしわをつくったまま、答えた。 「傷つかなかったわけじゃない。おまえの言葉にムカついたし、悲しくもなった。けど、俺もいっしょに熱くなって、おまえのことを心配しているからって余計なことを言った。おまえにはおまえの考えがあるのに、魂の番であるアルファだからって土足で踏み込んだ。おまえが触れてほしくないと思っているところを、わざと突いた。そんなのどっちもどっちだろ」 「そんなことないよ」と気落ちした日向は、膝の上に置いた拳を見つめながら答えた。 「だって、さくちゃんの言っていることは間違っていない。的を得ているよ。本当はわかっているんだ! お父さんのやっていること、僕やお母さんのことをどう思っているかを……。だけどそれを認めたら、僕は自分のことも、お母さんのことも、お父さんのことも許せなくなっちゃうんだよ。真っ黒で不気味なものに心も、身体も飲み込まれて僕が僕でいられなくなりそうで、怖いんだ……」  朔夜は、日向の小刻みに震える右手に自分の左手を重ねた。  はっとした日向は顔を上げ、真剣な顔つきをする朔夜を見て目を瞠る。 「日向はそんなふうにはならねえよ。いや、そんなふうにはさせねえ。おまえがそうならねえために、俺がいるんだ」 「さくちゃん……」 「もしも、おまえが暗闇の中に閉じ込められて、自分がどこにいるのかもわからなくなって出られなくなっていたとしても、必ず見つ出す。ぜってぇ助けるって約束しただろ」

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