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第11章 無力10

 きゅっと唇を嚙みしめて日向は朔夜の肩に頭を預けた。 「――ごめんなさい。心にもないことを言って」と謝れば、朔夜は「俺も悪かったよ。……ごめんな」と日向の頭を撫でてやった。  朔夜は、日向が袖を通しただけのワイシャツを脱がせ、手早く折り畳んだ。綺麗に畳んだ学ランとセーターの上にワイシャツを置くと立ち上がり、日向の身体の前面と背面を観察する。腹部のまわりにも痣ができているが、背中側のほうが痣の数が多い。  朔夜は日向の変色してしまった背中へと手を近づける。繊細なガラス細工にでも触れるような手つきで撫で(さす)る。  ビクリと日向は肩を揺らし、顔を俯かせた。途端に耳は赤く染まり、首筋や肩も赤く上気していく。 「痛いか?」 「うん……お昼に痛み止めを飲んでいないから、ちょっと痛いかも」  朔夜は日向に気づかれないように、小さくため息をついた。  なんで、こんなひでえことができるんだかな。おじさんの考えていることはマジで理解に苦しむわ……。と心の中愚痴りながら、日向に話しかける。 「で、下はどうする? 脱ぐのが難しそうなら俺が脱がすけど」 「えっと……その、」  眉を八の字にしてオドオドし、どこか緊張している日向の様子に違和感を覚えて朔夜は片眉を上げ、首を傾げる。 「……ここでするの?」 「するって、当たり前だろ。そのために薬箱を取ってきたんじゃねえか」 「ええっ! 先生も知っているの!?」 「ああ、じゃなきゃ薬箱なんて貸してくれねえだろ。安心しろよ。『日向が空を運んでいる最中に、こけたところを看る』って言っておいたからさ」 「そっ、そうなんだ」 「痣もやべえけど手の平の怪我もひでえな。こりゃあ、膝もひでえことになってそうだ。脱げるか?」 「うっ、うん。大丈夫……」 「そっか、わかった。終わったら声かけてくれよ」  朔夜は薬箱の中に視線を落とし、使えそうな薬品や備品を箱の中から取り出す。  日向は静かに立ち上がるとベルトを外し、上履きを、靴下を、ズボンをと次々脱いでいく。跳び箱の一番上の段の上に衣服を乱雑にかけ、跳び箱の横に立てかけられているジャンプ台の前に下履きを置く。深呼吸を一度してから震える手で下着を脱ぐ。 「あの、さくちゃん……脱いだよ……」 「ん、わかった」  朔夜は顔を上げると同時にマットの上からずり落ちた。傷一つついていない丸い尻と細い腰に目が釘付けになってしまう。  そうして日向は躊躇(ためら)いながら、振り返る。  同じ男の身体だ。  それなのに、日向の身体は少年にも少女のどちらにも見える危うさを秘めていた。

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