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第11章 無力11

 柔らかそうな胸には桃色の乳輪の大きな乳首がついていた。陰毛も生え揃え、年々グロテスクになって色も赤黒く変わった己の男性器と比べて、日向のそれはギリシャ彫刻の男性器のような造形美だった。毛が一本も生えていない状態で、男性器の色も乳首と同じ桃色をしていて美しかった。  触れれば壊れてしまいそうな儚さや清廉さとアルファを誘い込む(いん)()なオメガの色香――アンバランスな魅力が一人の人間の中で共存している。  幼稚園時代に裸を見ている。なんならプールの授業だって一緒に受けている(ただし、オメガである日向は授業の際は上下つなぎになっている水着を着用し、学外のプールや海ではノースリーブのパーカーを着ている)。  これは、はたして自分と同じ生き物なのだろうか? と一糸纏わぬ姿の日向朔夜は見惚れてしまう。  フワリとあのバニラに似たヘリオトロープの香りが強く香って、朔夜の理性を奪おうとする。  顔を真っ赤にした日向は、恥ずかしそうに目を伏せ、朔夜の名前を小さく口ずさんだ。  意識を取り戻した朔夜は日向に背を向け、大声でがなる。 「なんで下着まで脱いでるんだよ! ケツや足のつけ根に怪我をしてねえんなら、脱ぐ必要なんかねえだろ!」 「だって……さくちゃん、ここを出ていく前に言ったでしょ?『抱く』って」  日向の乾いた足音がする。心臓が高鳴り、今にも口から飛び出そうで朔夜は口元を押さえた。 「あっ、あれは……」  説明をしようと振り返れば、日向が裸の姿で自分に抱きついてくる。日向は迷いながらも朔夜の腰へと手をまわした。  瞬間、ズクンと朔夜の中のアルファが、オスの欲望が(もた)げ始める。慌てて朔夜は日向を引き離そうとするが、日向はピタリとくっつき虫にでもなったみたいに朔夜からしない。離れようとしない。 「おっ、おい、日向! おまえ、何やって――」 「いいよ、抱いて……」  か細い声で日向は訴えた。 「えっ?」と朔夜は情けない声を出し、日向の肩に置いた手を震わせる。 「僕、未成熟のオメガでまだ発情期が来ていないから、さくちゃんのオメガには――番にはなれないけど、さくちゃんの恋人だよ。だから、さくちゃんに抱かれたい。今すぐここでさくちゃんのものにして」 「な、何言ってるんだよ……冗談はよせって。好喜の言葉をマジにすんなよな」 「冗談なんかじゃない、僕は本気だよ」  日向は顔を上げる。どこか思い詰めたような顔をして、焦燥感の滲んだ声で朔夜へと訴えかける。 「好喜くんの言葉を真に受けて、しているんじゃない。初めての発情期がいつ来るか、未成熟のオメガにはわからない。察することができない。だから好きでもないアルファに犯されたり、番にされる事故が多い。僕はそんなのいや……! さくちゃんじゃない人に抱かれたくない……知らないアルファの番になんて、なりたくないよ……」

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