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第11章 無力12

「日向……」 「初めてはさくちゃんがいい。知らない人に初めてを奪われるくらいなら、さくちゃんの()()()になりたい。それにエッチをしているときに発情期が来れば、そのままさくちゃんの番になれる! ねっ、そうでしょ?」 「おい、ちょっと待てよ。練習台って――」  聞き捨てならない単語が日向の口から飛び出したことに朔夜は困惑する。  しかし、日向は今にも死んでしまいそうな様子で、朔夜にふたたび問いかけるのだった。 「抱いて、くれないの……?」  朔夜が答えを出せないままでいれば、日向は瞳を揺らし、朔夜の胸板に手をつき、距離を取ろうとする。 「そっか。僕、また、間違えちゃったんだ。いつも間違えてばかりで……情けないね。ごめんね、さくちゃんにいやな思いをさせちゃって」  日向の黒曜石のような瞳に涙は浮かんでいない。  それでも日向が泣いているような気がして、朔夜は日向の身体を思い切りギュッと抱きしめた。 「ば、馬鹿! ちがっ、ちげえ。ちがくて――いや、違うのか?」  頭のなかがこんがらがってきて、朔夜は自分が何を口にしているのかわからなくなってしまう。  そんな朔夜の状態に日向は戸惑いを示す。 「ねえ、『違う』ってどういうことなの? さくちゃんの言葉が足りなくて、よくわからないよ」 「だからな! 俺は、おまえを抱きたくないわけじゃねえし、いやがっているわけでもねえ。けどな、『おまえのことを抱けばいいのか』って言ったのは、日向の言葉に腹が立ったからだ。意地悪で言っちまったんだよ! だから、今そういうことをしてえわけじゃねえんだ」 「今すぐしたいわけじゃない?」  幼い子供が母親の発した言葉を繰り返すように、日向は朔夜の言葉を口の中で転がした。 「そうだ」と朔夜は強い口調で肯定すると日向の身体を離した。 「おまえとはいずれは結婚して番になる。大人になったら()()()()()()をするし、したいと思う……ただ、それは今じゃねえ」  ダラダラと汗をかきながら朔夜は、気恥ずかしそうに答える。 「とにかく、下着を穿けよ。目のやり場に困る」 「……わかったよ」と朔夜の言葉を聞き分けた日向は、青色のボクサーパンツへと足を通す。 「ったく、おまえの意思を無視して、無理矢理抱くわけがねえだろ。たとえ今ここでおまえが発情しても、俺はおまえを絶対に抱かねえっつーの」とブツクサ文句を言いながら、朔夜は湿布のフィルムをはがした。 「どうして?」 「馬鹿!」と朔夜は顔色を忙しなく青くしたり、赤くしたりして日向の頭を小突く。

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