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第11章 無力13

「全身痣だらけのやつを抱けるわけねえだろうが! これ以上、身体の具合を悪くしてどうするんだよ!?」 「……でもセックスって、激しいのだけじゃないんでしょ」  フィルムを剥がし、湿布を日向の二の腕に貼る。頬を染めながら朔夜は、げんなりした顔をする。 「あのなあ、たしかに俺はアルファだ。光輝の横暴ぶりに(へき)(えき)しているこの町の子供たちから、リーダーになってほしいと()われた。けどな、それはこの町にアルファが少ないからだ。東京に行けば、俺なんかよりも優秀な上位のアルファなんてゴロゴロいる」 「そうかな?」  碓氷家の本家当主が次期当主に指名したい人物が東京に住んでおり、長期休みに都心へ行くことの多かった日向は思わず首を傾げた。恋人や魂の番であることを抜きにして客観的に見ても朔夜の能力は、都心部にいるアルファとなんら変わらないほどに高いと思っていたからだ。 「そうだ。俺はただの“井の中の蛙”さ。本当は〈王さま〉なんかの器じゃねえんだ。この町だからやっていけるだけ。アルファだけど容姿だって、すっげえ整っているわけじゃねえ。イケメン俳優や美少年アイドルみたいなツラをしてねえしな」  自虐し、苦笑する朔夜の顔をじっと日向は観察した。  たしかに朔夜の顔は、世間一般の人がもてはやすような美しく整っていない。芸能界にいる個性的な顔立ちをしているわけでもなければ、ぱっと瞬間的に人の目を惹くオーラを放つものではなかった。  だからといって清潔感がなくて不潔で人にいやな印象を与えるものではない。(せい)(かん)な顔立ちをしていて、喜怒哀楽のはっきりした表情は親しみやすいものだし、くしゃりと笑った顔は愛嬌があってかわいい。何より彼が人を助けたり、本を読んでいるとき、男らしく凛々しい顔つきをしている。彼のそんな顔つきに惹かれる人間がいることを、日向はよく知っていた。  それは幼少期に女の子と間違われ続けた日向が、逆立ちしても手に入れられないものだった。  そもそも日向は朔夜の顔が好みだから好きになったわけではない。彼の人を思いやる気持ちや行動力、頭の回転の速さに惚れ込んだのだ。  なんだか変な話をするなと思いながら、日向は朔夜の言葉を耳にしていた。 「女子からもモテて〈王子さま〉なんて呼ばれて、男子からも『綺麗な顔をしている』って言われているおまえの隣に立って、釣り合っているのかなって不安になるときがある」 「なんで? さくちゃんは、かっこいいよ。女の子にだって嫌われていないし、先輩方からもモテているのに」

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