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第11章 無力14

「嫌味かよ?」と朔夜は日向の背中に湿布を貼りながら、いら立たしげな声で返答する。 「モテているのは、白人見てえな髪や目の色をしたアルファの男が珍しいからだ。おまえみたいに美少年だ、目の保養だって、チヤホヤされているわけじゃねえ。動物園だか、博物館に特別展示された珍獣が物珍しくて、ついジッと見ちまうのと変わらねえよ」 「それはさくちゃんの思い違いだよ。先輩方は頼りがいがあって、優しいさくちゃんのことが気になるんだよ」という言葉がのど元までせり上がる。だが、日向はその言葉を呑み込んだ。素知らぬ顔をして「そうかな?」と受け流す。 「それで、さくちゃんの容姿の話とセックスがどう繋がるの?」 「だから、(どう)(てい)なんだよ!」と朔夜は赤面し、がなった。 「百戦錬磨のやつらみたいに器用なことができるわけねえ! おまえに発情期が来たら、オメガのフェロモンにあてられて理性がきかなくなる。おまえのことを、めちゃくちゃにしちまう。そうじゃなくても初めてをうまくやれる自信がねえ。傷つけちまいそうで怖いから抱けねえし、抱かねえ」 「えっ?」  思わず日向は素っ頓狂な声を出した。 「『えっ?』じゃねえよ。俺が童貞なのは、日向が一番わかっているだろ。おまえのことを抱いてねえんだから」  朔夜は、日向がさっき自分が意地悪をした分の仕返しをしているのだろうと思っていた。  変色しきった腹部へと湿布を貼り、日向はどんな表情をしているのだろうと視線をやる。  日向はひどく困惑した様子で動揺していた。  朔夜は自分の発言がまずかったのかと、うろたえた。 「おい、どうした? 俺の言ったことが気持ち悪かったのか? 怖がらせた、か?」 「違う、違うよ。だって――さくちゃんは童貞じゃないと思ってたから」 「はあ!?」と朔夜は大声で叫んだ。 「アルファだし……女子の先輩方が『さくちゃんに抱いてもらった』って話していたから。さくちゃんはもう、そういうことを済ませたんだと思って……」 「なんだよ、それ! そんなデマが流行っているのか?」  日向はゆっくり一度だけ頷いた。  鳶色の髪をガシガシかきながら朔夜は、ため息をつく。 「学校でも、外でも四六時中おまえといっしょにいるのに、そんなことできるわけがねえだろ! おまえといないときは家か図書館にいるか、道場にいるか、親父の店の手伝いをしているんだぞ」 「そう、だね」 「好きでもねえ女を抱いている暇なんかねえよ! なのに、おまえはその女どもの嘘を信じたのか?」

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