126 / 150
第11章 無力15
朔夜の問いかけに日向は答えなかった。
どうして日向が『抱け』と言ったり、自分を誘惑しようとしたのか合点がいった朔夜は、がっくしと肩を落とした。やってもいない浮気を疑われ、架空の浮気相手たちである先輩たちへの対抗意識から身体を繋げようと日向が考えていた。その事実にショックを受ける。
気落ちしている朔夜をよそに、日向は朔夜が浮気をしていないことを知れて心の底からうれしがっていた。朔夜は嘘をつけない。朔夜本人がしていないと言っているのだから、先輩たちの言っていたことが嘘だとわかり、日向は安堵していた。
そっか。僕に嘘を教えた先輩たちは、あ の 人 たちと仲がよかったから、僕に意地悪を言ったんだ。あの事件から一年が経った。もうさくちゃんのことを許そう。さくちゃんだって悪気があってやったわけじゃないんだし。
「さくちゃん」
「……なんだよ?」
日向は朔夜の唇に口づけ、抱きついた。
朔夜は真顔になった。日向が口づけしてくれたのが夢のようで、ゆっくり瞬きをした。だが、日向が口づけてきた瞬間を朔夜の脳は克明に捉えていた。何より日向の柔らかい唇がそっと触れた感触が、たしかに朔夜の唇に残っていた。
「ごめんね。あの日、さくちゃんは僕を助けに来てくれた。けど、ずっと許せなかったんだ。きみのことを信じたいし、信じている。それでも……男である僕は、ふさわしくない。さくちゃんの隣に立つのは、僕じゃないって苦しくて。あの子に嫉妬していたんだ」
――ごめんで済む話じゃない、と突っぱねることも朔夜にはできた。
だが、日向の置かれている現状や立場を思えば、そんなことはできなかった。
「いいよ。もう謝るな」
朔夜はそっと日向の背中に腕をまわして答えた。
「今のおまえがさ、先輩たちに嫉妬をするくらい、俺のことを思っている。それだけで充分だ」
「さくちゃん……」
「まあ、ビンタを食らったのは、マジで痛かったけどな。……少しは俺のお願いを聞いてくれるか?」
先ほど平手で打った朔夜の左頬へ口づけ、「もちろんだよ」と日向は頷いた。
そうして朔夜と日向は、昼休みが終わるまで触れるだけの口づけを何度も、何度もしたのだった。
ともだちにシェアしよう!