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第12章 アンノウン1

   *  職員室の裏口へとまわり、施錠された扉をノックする。  扉の近くにいた教頭は手にしていた書類を机の上に置く。裏口の前にレポート用紙を手にした日向がいるのを確認し、鍵を解錠する。扉を開けて彼に声を掛ける。  日向は、大林に用があることを教頭に伝える。  教頭は職員室の中を見渡し、大林の姿を目に映すと彼の名前を呼んだ。  朔夜ではなく、日向がやってきたことを不思議に思いながら大林は椅子から立ち上がり、教頭と日向のいる方へと歩いていった。  教頭はもとの席につき、書類へと目線を落とした。 「あれ、叢雲のやつはどうした? 碓氷だけなのか?」 「はい。今、さくちゃんは空ちゃんと話をしています。空ちゃんのほうが、さくちゃんに何か話したいことがあったみたいなので、僕が代理で来ました」 「なるほどな」と大林は首をゆっくり縦に振り、日向の手からレポート用紙を受け取る。 「ありがとな。あいつにも礼を伝えておいてくれよ」 「はい、わかりました」と日向は職員室をあとにする。  ――さくちゃん、空ちゃんと何を話しているんだろう。まだ来ないのかな?  日向は相談室の近くをぶらついて、朔夜が帰ってくるのを待っていた。すると……「ちょっと、いい加減にやめていただけます? ほんっとーに、しつこいんですけど!」と怒鳴り散らす菖蒲の声がどこからともなくする。 「なんでだよ、ぼくのなにが気に食わないんだよ!」と語気を強くする光輝の声もしてきた。   相談室の近くにあるごみ置き場の方へと移動し、建物の陰に隠れて日向は二人の様子をうかがった。 「何って? 全部ですよ、全部!」 「なっ、全部って……」  まさか、菖蒲にそこまで拒絶されるとは思っていなかったといわんばかりの驚きぶりで、光輝は狼狽した。 「上履きの中に画鋲を敷きつめたり、人の机のなかにAVやコンドームを入れることのどこがアプローチなんですか? ただの嫌がらせ、いじめです。そんなこともわからないんですか?」 「だから、ぼくはやっていないって言っているだろ! あれは、まわりの連中がやったことで……」 「言い訳ですか? 見苦しいですね」 「な、なんだよ、その言い方は!」 「あなたのお友達がやったこと? だったら、なんで止めないんですか? 私のことを嘘でも好きだと言うのなら、止めるフリくらいしてほしいです」  眉を釣り上げ、強気な姿勢を崩さない。そんな菖蒲に、光輝は何も言い返せずにいた。 「空ちゃんのことだって、わたしは許したつもりはありません。血は繋がっていなくても、あなたの妹でしょ。それなのに……あなたは空ちゃんがあの女から虐待されていても、何もしないんですよねえ」

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