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第12章 アンノウン2

 顔面蒼白状態の光輝は身体をブルブル震わせ、「だから……!」と何か言いかけるものの結局、口をつぐんだ。  そんな様子の光輝に対してニッコリと菖蒲は笑みを浮かべる。 「あなたはいつもそうですね。口だけは達者なものの度胸がない。ここぞというときに男気を見せることのできない弱い人!」 「っ……!」 「わたしは、あの人たちがわたしや、姉さんにしたことを忘れていません。今も、そしてこれからも、永遠に忘れることはできないのですよ? それがどれだけ苦しいことか、あなたには理解できないでしょう」  光輝は唇をギュッと強く嚙みしめ、項垂れていた。 「ああっ、これは失礼しましてた!」と菖蒲は口元に両手をやり、微笑んだ。 「あなたの頭には(うじ)が湧いているから、過去にあった出来事も覚えていないし、わからないんですよね? 取るに足らない人間のことなんか、いちいち覚えているわけもないのに聞いてしまいました」  語尾にハートがついているような可愛らしい声音で「ごめんなさい」と光輝に謝る。それは光輝を端から馬鹿にし、侮辱する行為だった。  日向は、菖蒲が人にひどい言葉をかける姿を一度だって目にしたことがなかった。いつも明るくハキハキと元気のある彼女に、そんな一面があることを知り、ひどく戸惑った。同時にプライドが高く、(かん)(しゃく)持ちの光輝が怒り狂わないで、冷静な態度でいることに目を丸くする。 「……ぼくは、止めたんだ。だけど、あの人たちは、やめなかったんだよ! 今回の件だってそうだ。『虹橋は生意気でビッチな女だから制裁をして、この町の掟を教えてやらなきゃ』の一点張り。僕の話に聞く耳を持たない! それを、どうしろっていうんだよ!?」 「それくらい自分で考えたらどうですか? まあ……あなたの言葉なんて一切信じませんけどね」と菖蒲は興味なさそうな様子で髪の先を弄り始める。 「あなただって、東京から来たあと腐れのなさそうな女とヤりたいだけなんでしょ。わたしのことが好きだからじゃない。きっと頭の弱そうな女だって甘く見てるんですよね? そうやって、わたしのことを馬鹿にしないでくれますか?」  眼光鋭く菖蒲は光輝を睨みつけた。  菖蒲に全身で拒絶されていることを感じた光輝は、咄嗟に彼女の二の腕を摑んだ。 「痛っ! 離してください……!」  大嫌いな男に、ギリギリと強い力で二の腕を摑まれて、菖蒲は悲鳴をあげた。  必死の形相で光輝は菖蒲に詰め寄った。 「違う、違うんだよ! ぼくは本当に君のことが――」

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