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第12章 アンノウン4
突然のことで対処できず、日向は顔面直撃してしまう。痛みを感じる左目の辺りを日向は手で押さえる。
顔色を青くした菖蒲は、日向の顔や目に傷がないかを急いで確認する。
両肩で息をしながら、光輝は立ち上がる。
「なんでだよ……ぼくはベータなんだぞ。なんで、おまえみたいにアルファの男に守られていなきゃ生きていけない、オメガの男に負けなきゃいけないんだよ! おまえみたいな人生の負け組に負けなきゃいけないなんて……!」
「いい加減にしてください」と人を射殺さんばかりの目つきで菖蒲は光輝を見据える。
尋常ならぬ様子の菖蒲に光輝と日向は息を呑んだ。
「そうやって高圧的な態度をとって、人を踏みにじる。あなたのそういうところが大嫌いなんですよ。何様のつもりなんですか」
「にっ、虹橋さん――」
「さっさとどこかへ行っていただけませんか? あなたのその矮小さと人を立場によって差別する傲慢さの滲んだ顔を見ていると吐き気がします。これ以上、わたしに嫌われたくないと微塵でも思うなら、この場から消えてください」
ひどく傷ついた顔をして光輝は正門の方へ走っていった。
きっと鋭い目つきをして菖蒲は、涙目になっている日向のことを凝視した。
「……なぜですか?」
彼女が何を言っているか理解できなかった日向は「えっ?」と訊き返す。
「なぜ、わたしなんかを助けたのですか?」
「なぜって友だちだからだよ。それに、光輝くんのことで困っていそうだったから……」
「なんだか納得しました」と菖蒲は自らの手を背中側へとやる。
「強いんですね、日向くん。オメガの男は、ベータの女よりも弱いと聞くので、もっとひ弱でナヨナヨした人なのかと思っていました」
にっこりといつものように笑みを浮かべている。しかし、彼女がいつもと雰囲気が違うことを感じて、日向は狼狽する。
「空ちゃんや他の女の子たちが、あなたのことを“王子さま”と呼び、チヤホヤ褒めそやしている理由が、ようやくわかりました」
「えっと……褒めているわけじゃない、よね……?」
「いいえ、褒めていますよ」と菖蒲はどこか据わった目で日向のことを見つめる。
「正義感があり、強気をくじき弱気を助ける。まるでヒーローのような美しい王子さま。女の子たちから人気がないわけがないですよね。朔夜くんが魂の番であることを抜きにしても、あなたにご執心になる理由もわかります」
「何が言いたいのかな?」と日向の質問に、菖蒲は真顔になる。
「日ノ目くんのような人も嫌いですが、あなたのように善人ヅラした人は、もっと嫌いです。もちろん、わたしのような女には、あなたのような王子様は必要ありません」
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