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第13章 坪内兄妹2

 ズイッと朔夜は角次に詰め寄り、瞳孔が開いた状態 で責め立てる。 「うるせえ、角次。俺は競馬場の馬じゃねえんだよ……勝手に賭けの対象にすんな」 「ちょ、ちょ、こっわ! つーか、馬だなんて一言も言ってねえんですけど!?」  ブルブル膝を震わせている角次を捨て置くと朔夜は目を参画にして、「チッ、残念ね」と舌打ちをしている絹香と「やっぱ怒られるよなー……」と遠い目をしている穣へと顔を向ける。 「穣と絹も勝手なことしてんじゃねえよ。何してんだよ、マジで」  「だって、おもしろそうだったんだもの」「悪ぃ、朔夜。おれじゃ止められなかったわー」と反省の色が見られない。  好喜や疾風、鍛冶は明後日の方向を向いて自分たちは関係ないと素知らぬ顔をして逃げようとする。  が、「てめえら、勝手に逃げようとしてんじゃねえよ」と般若のような顔をした朔夜に捕まえられてしまう。  そうして全員、朔夜の説教を食らうことになったのだった。  残りのクラスメートは王様に怒られている衛たちの様子を目にして半笑いをしたり、内心「うるさいな」と思いながら遠巻きにしていた(ちなみに光輝たちのグループは、転校生のところへ行っていた)。 「ったく、祝辞の添削を受けに行ってる間に、なんでそんな馬鹿なことを始めるんだよ!? 俺が日向以外に(なび)く訳がねえだろ!」  前年、小学校の副会長を務めた朔夜は、新たに生徒会長へ就任した。生徒会長は毎年、入学式に祝辞を読む役目があったので、春休み中に彼は先輩たちが書いてきたものを参考に祝辞を書いたのだ。そして職員室で生徒会の顧問に添削をしてもらい、オーケーサインを出してもらったので、教室へ帰ってきたら……賭けの対象にされていたという訳である。 「いや、でもさ、朔夜だって男だろ。こう――かわいい女の子に『好きです』みたいなアピールをされたらさ、『ちょっといいかも』って感じになるだろ?」  こめかみに青筋を立てた朔夜が即答で「しつけえな。そんなの天と地がひっくり返ってもぜってぇ、ねえわ! 俺は、女子に興味ないっつーの!」 「そうだよ、好喜くん! さあちゃんが、いくらかっこ悪い人で、ぜんぜん女の子にモテないからって、そんなことを言うのはひどいよ!」と鍛冶が大声で叫ぶ。 「えっ、おれ、そんなこと言ってねえぞ……」 「転校生の女の子が綺麗だから、言い寄られたさあちゃんはメロメロになっちゃうに決まっている。それで、ひなちゃんを泣かせるんだ!」  ブチッとキレた朔夜は、そのまま鍛冶の頭に両の拳を当て、グリグリと圧をかける。 「ぎゃあああ」と鍛冶の悲鳴があがる。 「てめえはまた、トンチンカンなことを……どうせ、賭けの内容もよくわからず、疾風と同じところに賭けたんだろ?」 「違うもん! ぼくは、友だちであるひなちゃんに賭けたんだよ!?」  教室にいる子どもたちは、あきれ果てていた。「碓氷がいないと朔夜は手に負えないんだよな」と日向が帰って来るのを首を長くして待っていた。  噂をするとなんとやら。  飼育係である洋子と日向が、うさぎと鶏、文鳥たちに朝ご飯をやり終え、教室へ帰ってきた。 「あれー、鍛冶くんがさあちゃんにグリグリされているー。鍛冶くん、今度は何をしたのー?」 「ちょ、ちょっとさくちゃん。鍛冶くんに何をやっているの!?」  慌てて日向が朔夜に駆け寄り、鍛冶を助けようとするので、火に油を注ぐような状態となる。  ますます朔夜が怒り出した。 「うるせえ、こいつの言動には、いつもウンザリさせられているんだよ! 適当なことを言いやがって……」 「なんかよくわからないけど、もう――やめなってば!」  そうして朔夜を引き剥がして、日向は鍛冶に助け舟を出したのだった。  助けてもらえった鍛冶はというと「うえーん、ひなちゃん……さくちゃんが意地悪するぅ……」とビービー泣くので、日向もほとほと困り果ててしまう。 「ほら、鍛冶。入学式なんだぞ、泣いてどうする? 鼻を拭け」  半ば、鍛冶の発言にあきれ果てていた疾風がポケットティッシュから一枚、ティッシュを渡す。  鍛冶は疾風のくれたティッシュではなく、ポケットティッシュの方を持っていて、鼻をかみ始めた。  そうして、その場は白けた。  「あっ、もうすぐ朝礼の時間だわー。新しい担任の先生がわかるわねー。だれだか、ワクワクするわー」と洋子が喋るとタイミングよくチャイムが鳴る。 「さあ、席につかなくちゃね」「そうだなー」と他の者はこれ幸いと逃げ出した。  腹の虫が治まらない朔夜の両肩に日向が両手を置いた。 「ほら、さくちゃん。もう怒らないでよ」と宥め、渋々朔夜は怒りを沈めて、日向とともに席へ着いた。  ――魂の番だからか、それとも偶然の産物かわからないが、席替えをくじで決めると日向と朔夜は必ず隣の席や前後になった。  それは本人たちだけでなく、他人がやっても同じだった。  まだ朔夜と日向が六年でなかったとき、歴代の六年生は全校生徒及び教師を含めた給食室での席決めを、ネームプレートの神経衰弱で適当に決めていた。だが、どの学年がやっても、必ず朔夜と日向が同じ席になってしまったのだ。

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