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第13章 坪内兄妹4
「いや、どうだろ? 両親とそういう話をしないし、俺もそういうの興味ないから、よくわかんねえや」
「そうなの? 満点の星空っていう意味だったら、とっても綺麗だと思うな。朔夜くんって呼んでもいい?」
「お好きにどうぞ」
「うれしい、わたしのことも希美って呼んでね」
朔夜は首の後ろを掻いた。
牡丹の花のように笑う希美の後ろには「何こいつ? あたしを無視している訳?」と怒りのオーラを発している絹香がいた。
同性より異性と話す方が得意な人間もいる。
かといって朔夜は、衛や角次のように話好きという訳でもない。初対面の異性に話しかけられて、こんな風に長々とお喋りをするのは苦手中の苦手だ。
希美は目を輝かせて朔夜への質問をし、自身のことを話した。
目の前の美少女に対して朔夜は苦笑する。
「いろいろ慣れないこともあるだろうけど、ちょっとずつ慣れていけば大丈夫だから。困ったことがあったら、俺や周りのやつに聞いてくれ」
「ありがとう、そう言ってもらえると気が楽になる」
「学校内は女子が案内する話になってるんだ。なあ、絹香」
意図的に朔夜は絹香へと話を振った。
「ええ、そうね。入学式の準備が終わったら案内するわ、坪内さん」
にこりと笑みを作って絹香は笑った。しかし――「あら、そうなの。ありがと」とそっけない態度で希美は礼を言うだけだった。
絹香に対して興味ないと言わんばかりの態度をとり、ふたたび朔夜へと顔を向けて話をする。
おい、どうにかしてくれよと朔夜は、絹香に向かってアイコンタクトを取った。
すっかり希美の態度に腹を立てた絹香は、知らないわよ。そんなの自分でどうにかすれば? という眼差しを朔夜に向け、助け船を出さなかった。
日向のやつ、俺と坪内さんの様子を見て変な風に誤解しないよなと朔夜は、内心タジタジだった。同時、もしかしたら日向がかわいらしくヤキモチを焼く、めずらしい姿を見られるかもしれないという気持ちになる。
期待と不安が入りまじった状態でチラと日向のほうへ目線をやる。
朔夜の予想を裏切り、日向は黒曜石のような瞳をキラキラと輝かせていた。
転校生とすぐ仲よくなれて、お話もできるなんて、さすがさくちゃん! と尊敬の眼差しを向けられる。
まあ、そうだよな。日向がヤキモチを焼いたり、嫉妬する訳ないか――と朔夜は内心ガックリする。
魂の番である日向に好かれてはいる。将来、番となり、結婚する約束もしている。
しかし、日向が自分に抱いているものは尊敬と憧れと友情だ。恋愛感情がいっさい抜けていることを朔夜は不満に思っていた。
自分ばかりが日向、日向と恋い焦がれ、追い求めるだけ。まだ小学生だし、日向の感情の発達度合いが自分よりも幼いことを朔夜は理解していた。そのうち日向だって恋愛感情を持ちようになって自分を好きになってくれる。ゆっくり、ふたりで大人になればいいという気持ちもあるが、このまま日向が発情期を迎える歳になっても自分を愛してくれなかったらどうしよう? という焦りもあった。
種を植え、水と肥料を与え、太陽の光にもあたっているのに、いつまでも芽吹かない植物を観察しているような焦れったさを朔夜は感じていたのだ。
「坪内さん、僕、碓氷日向って言います。さくちゃんの幼なじみです。わからないことがあったら聞いてね!」
引っ込み思案の日向が話しかけると「ええ、よろしく」と希美は、そっけなく答えた。
「坪内の紹介も終わったし、体育館へそろそろ移動する時間だ。トイレは済ませておくようにな」
そうして朝礼が終わると子どもたちは教室を出始め、移動する。
朔夜が立ち上がっても希美は、絹香ではなく朔夜に話しかけていた。
普段あまり話さない男子や光輝たちのなんともいえない視線を感じて、朔夜は居心地の悪さを感じた。
「ねえ、朔夜くん。朔夜くんには彼女とか好きな人っていないの?」
「へっ」と朔夜は素っ頓狂な声を出した。「いきなり、どうしたんだ?」
「だって、朔夜くんってカッコいいし、素敵じゃない。彼女とかいるのかなーって思ったから質問したの」
希美の言葉に朔夜は頬を引くつかせた。
いやいや、何を言ってるんだよと内心でツッコミを入れる。
希美の発言に不信感を抱き、警戒し始める。
衛や疾風、日向のように容姿が整っていて学年を問わず他の女子からも人気がある状態なら、朔夜もそんな反応を取らなかっただろう。むしろ美少女に興味を
しかしながら朔夜はワンエイスである母よりも、白人の血が濃く出ている自分の容姿にコンプレックスを強く感じていた。何より植仲町周辺で女子からモテたことは一度だってなかったのだ。
まるで不審者を見かけた気弱な犬のように身体を引く。
だが希美は、そんなのお構いなしでズイと朔夜に近づく。
「いや、そういう人はいないけど」
「本当!」
ぱあっと希美は表情を明るくさせた。
「あ、ああ……」と歯切れ悪く朔夜が答えると、希美は両方の腕を朔夜の左腕に絡ませた。
「じゃあ、朔夜くんの彼女に立候補しても問題ないわね。朔夜くん、わたしとつきあってよ」
ええーっ! と好喜と鍛冶の叫び声が教室内に響いた。
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