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第13章 坪内兄妹9
日向に話しかけようとするたびに希美に邪魔をされる。
かといって日向も希美のことを苦手に思っているのか近寄ってすらこない。
転校してきたばかりの人間をぞんざいに扱うわけにもいかないので痛し痒しだ。
しかも希美が朔夜に好意を寄せていることを好喜を筆頭とした「モテナイ男同盟」の男子がブーイングを上げてくるし、鍛冶にそらみたことかと変なことを散々言われ、絹香に白い目で見られるは、衛にからかわれる――とウンザリすることばかりだった。
朔夜は家に帰宅後、兄の燈夜と共同で使っている二階の部屋の布団に身体を預け、天井を眺めていた。
「ただいまー」と兄の声が階下からする。が、反応しないで、ぼうっとしている。
燈夜がギシギシ軋む今にも穴が空きそうな階段を上がり、ふすまを開ける。
「おい朔夜、無視してんじゃ……って、何してるの。寝てる?」
青いブレザーを着た燈夜はグッタリしている弟のもとへと駆け寄り、顔をのぞき込む。
「あー……兄ちゃんだ。お帰り」
「おまえ、どうした。死人みたいな顔してるぞ。また具合でも悪いのか、熱は?」
「ちげえよ。人にベタベタ身体を触られて疲れてるんだ」
怪訝な顔をして燈夜はスクールバックを畳の上に置き、クローゼットのほうへと歩いていく。
「女子か? めずらしいな、おまえみたいなやつを気に入る子がいるなんて」
「だよな、俺も自分でそう思うよ」
嫌味を言ったのに怒って嚙みついてくるどころか、嫌味を肯定する朔夜に、これは重症だなと燈夜は目を細める。
「愚痴だったら聞いてやるよ。何があった?」
「んー……今日、転校して来た子に気に入られてさ。ずっと話しかけてくるんだよ。俺が『ほかに好きな人がいる』って言っても聞く耳持たず。容姿が綺麗な子だからか、めちゃくちゃ自信満々でさあ、俺に振られるなんて絶対にないみたいな? しつこく腕を絡ませてきたりするんだよ。でも、好喜たちは『贅沢だ』って文句つけてくるし、衛もおもしろがってやがる。かといって、穣や角次も助けてくんねえ。絹香はあきれ返ってるし、鍛冶から、『最低』だなんだかんだ言われて……」
弟の話を聞きながら「それはひどいな」と燈夜は相づちを打った。
「日向は日向で、ぜんぜん俺のことなんか気にしてくれねえし」
「……たしかにキツイな」と燈夜は答えながら、それが一番おまえの悩みのタネだろと内心ツッコミを入れる。
「だろ!?」と朔夜が飛び起きる。「俺は日向の魂の番なんだぞ! なのに男として俺のことを好きになってくれねえし、今日だってヤキモチも焼いてくれねえ……」
困ったように燈夜が首の後ろを掻いた。
「あのさあ、日向くんはまだ小学生のガキなんだぞ。おまけにオメガとしても、男としても未成熟。恋愛どうこうより、友だちと遊ぶほうを優先したくなるのは当然だろ。おまえや絹香がアルファだからってマセガキ過ぎるんだよ。俺、高校入るまで恋愛なんて考えたことないぞ」
「マセガキじゃねえよ!」と朔夜は怒鳴った。「それに小学生のガキって……俺ら六年生だぜ?」
「俺だって高校生のガキであることに変わりない。おまえらなんて、ぴよぴよ言ってるヒヨコも同然だ」
とたんに朔夜はムッとした顔をする。
燈夜は立ち上がり、クローゼットのハンガーを手に取り、ブレザーをかける。ネクタイを解き、着替え始める。
「日向から嫌われてねえけど、一番の友だちだと思われてるのがムカツクんだよ。なんで『特別』だって言ってるのに、わかってくれねえんだ?」
「おまえが『好きだ、付き合ってほしい』って伝えないからだろ」
「はあ? こんだけ『特別』扱いしてるんだぞ!? 普通、わかるだろ!」
「叢雲 も大概だけど、碓氷の家は碓氷の家でいろいろあるんだ。おまえの常識を日向くんに当てはめるなよ。おまえが一言、言えば済む話だろ」
「だって、振られたらどうしたらいいかわかんねえし」と朔夜は自信なくモゴモゴ喋った。
「何回でも玉砕すればいいだけだろ。振られたからって死ぬわけじゃあるまいし」
燈夜のしごく真っ当な意見に朔夜は悔しそうに歯嚙みした。
「でもまあ――中学や高校になって、日向くんに発情期が来たら抱いて番にすればいいだけの話だ。そうだろ?」
「ふざけんな、それがいやだって言ってんだろ! アルファとオメガっていう力関係のある状態で番になるんじゃなくて、俺は日向に男として好かれたいんだよ! 日向から『さくちゃんが好き』って言われたいんだ!」
毎度同じやりとりに燈夜はゲンナリする。馬鹿のひとつ覚えでムチャクチャなことを言い続ける弟に、頭が痛くなる。こめかみに指の先をあて、目を閉じた。
「だったら、母さんとおばさんみたいに友だち関係で終わりだな。日向くんが、おまえに振り向かない限り、どうしようもないんだから」
「だから、兄ちゃんたちに相談してるんだろ? どうしたら日向に好かれるかって」
「そんなことを言われてもな……。日向くんがおまえのことを恋愛対象として見てないんだから、どうしようもないだろ。嫌われないだけ御の字と思えよ」
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