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第13章 坪内兄妹11

 もっぱら弟である自分には当たりが強いものの他人には人当たりがよく愛嬌があるのが叢雲燈夜という人間だ。  そうはいっても光輝たちのように人を馬鹿にして見下し、いじめる人間には、とことん手厳しい。  コトリとカップをテーブルに置いて燈夜が沈黙する。  朔夜は肌がピリピリとするような、燈夜の殺気にも似た怒りを感じながら、「兄ちゃんをここまで怒らせるやつが世の中にはいるんだな」と心の中でつぶやいた。 「兄ちゃんが出会って間もない相手に嫌悪感丸だしなんて、めずらしい。そいつ、めちゃくちゃ性格が悪いのか?」 「ああ、最悪にな。アルファだからって図に乗ってるやつだ。オメガの女子が発情期も起きてない状態で嫌がってるのに無理矢理、言い寄ってた。おまけに無理矢理引きずって、人気のないところへ連れて行こうとしてたんだ。坪内の金魚のフンをやっているベータと一緒にな」  朔夜は朝、母が炊いた温かいご飯を鉄鍋に入れる。ご飯に卵が絡むようにお玉でかき混ぜながら「なんだよ、それ。なんでそんなことを……」と戸惑いの声を上げる。 「オメガはアルファの“所有物(モノ)”として――性欲を満たすための都合のいい道具として生まれたって考えるアルファもいる。だから……オメガを人間として見ていないし、ペット以下、奴隷みたいに扱ってもいいと思ってる。うちの親戚連中と同じだよ。アルファの風上にも置けない」 「……そいつ、うちのクラスに来た坪内さんと兄妹なんかな?」 「可能性は高いな」と燈夜は静かに返答した。「何しろおまえのクラスでアルファは、おまえと絹香だけだ。小学校のほかの学年にアルファは皆無だ。オメガを排斥したいアルファの連中は、番制度を否定している。アルファの男女が付き合い、結婚をして、アルファの子どもだけが生まれてくることを強く望むからな。おまえ、坪内希美って子に目をつけられたんじゃないかな?」 「かもしんないな。いきなりアプローチをかけてきたから」 「気をつけろよ、日向くんが危害を加えられるかもしれないぞ」 「……わかってるよ」と返事をしながらコンロの火にかけられ、熱くなった重い鉄鍋を動かす。朔夜はできあがった炒飯(チャーハン)をふたりぶんの器に移していった。 「ただでさえ、光輝たちから嫌がらせやいじめを受けているんだ。もしも希美っていう子が本当に坪内昴明の妹なら、ますます嫌がらせやいじめがひどくなるぞ」 「大丈夫だ! 兄ちゃん、心配しすぎだよ。だって俺や絹香が日向を守るから。衛たちも日向に何か合ったらすぐ俺に教えてくれるし、力になってくれる!」  同じアルファである燈夜の心配をよそに朔夜は明るく答えた。 「……それならいいけど。一応、用心はしておけよ」 「うん」  ふたりは席につき、他愛もない話をしながら昼食をとったのだった。

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