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第9章 憧憬6

 朔夜は日向になんと声を掛けていいのかわからなくなり、視線をさまよわせた。 「だから、さくちゃんと一緒に会いに行って元気な姿を見られたらいいなって思うし、また前みたいに話すきっかけ作りにさせてもらえないかな? なんだか利用してるみたいで、ごめんね」 「謝るなよ。これくらいのことは利用しているうちに入らねえって。そもそも何も言わずに、こっちに連れてきたのは俺なんだし」 「うん、わかってる。でも、なんか気になっちゃって……」 「俺だって、あいつのことは嫌いじゃねえよ。()()()()っつっても、ぜんぜん、兄貴のほうとは違うからな」 「そうだけど……さくちゃんは何か思ったりしないの? なんか、こう複雑な気分とか……」 「いちいち、そんなもん毎回気にしてたらなこの先、俺の身が持たねえよ。おまえ、しょっちゅう女子から告られてるし、外に出れば男にナンパされてばかりだからな」  ジトっと横目で朔夜が指摘すれば、「それはその……」と日向は両手の人差し指をツンツン突き合わせて、しどろもどろになる。 「そもそも『やめろ』って言ったところで、言うこと聞くようなタマじゃねえだろ。俺の言うことを聞いたことがあったか?」 「えっ? んー……どうかなー?」  ごまかすようにへらっと日向が笑えば、朔夜はため息をついた。 「自分で一度決めたら最後までやり通す。だったら、おまえがやりたいようにやれば、いい」 「なんだか、ちょっと手厳しいね」 「当たり前だろ。言われても仕方ねえことを毎度してるのは、どこのどいつだ? 冒険なんか、ひとっつもしてねえのに、いつもハラハラドキドキさせられっぱなしなんだぞ!? 何回、肝を冷やしたと思ってるんだよ!」  力加減をしながら朔夜は、日向の両頬を引っ張った。  朔夜が手を離すと「いやー……面目ないです」と日向は頭の後ろを掻く。 「変なところで、すっげえ頑固だし……だから、最後に俺のところへ帰ってきてくれればいいよ。おまえがやりたいと思ったことを、やる姿を俺は見守る。  無理な話だってわかってるけど、できれば傷ひとつない無事な状態でいてほしい。悲しい思いも、苦しい思いもしないでくれれば、それでいい」 「さくちゃん」と日向は朔夜を見つめ――「すっごいキザなセリフだね」と発言した。  やっぱり、こうなるかと朔夜は肩を落とし、ゲンナリする。 「それ、どこのドラマ? それともモノクロの古い映画や古典の小説から引用したの?」 「……そんなことしてねえっつーの」 「そうなの!? なんていうか、さくちゃんって結構ロマンチストだよね。恥ずかし過ぎるよ」  とうとう朔夜は、こめかみに青筋を立て、日向に背を向けてしまった。ガナリ散らしながら、ツカツカと大股で速歩きをする。 「うるせえな、人がマジで言ってるっつーのに! もうおまえなんか知らねえ、ここで置いていく!」 「ちょ、ちょっと待ってったら、怒らないでよ!? さくちゃん!」  朔夜は自分を追いかけてくる日向の額へデコピンをする。 「いった!」 「引っ掛かったな!? いつもの仕返しだ!」 「ええっ、それはひどいよ!」 「言ってろ! つーか、俺がおまえを置いていくわけねえだろ?」  歯を見せて朔夜は楽しそうに笑い、それから、日向と一緒に歩き始めたのだった。

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