107 / 157

第12章 陽炎3※

「所詮は精神世界のできごと、泡沫の夢です。【亡霊】が不思議な力を現実世界で行使できるように、この世界では魔法や魔術に似た力を使えます。もっと楽しんだらいいのに、本当にまじめな方。私を日向の代わりにすることですら罪悪感を感じるなんて」 「訳わかんねえこと言ってねえで離せ! うあっ!?」  陽炎は朔夜の性器を口に含んだ。  温かくぬめった口内へと招かれ、朔夜は驚愕する。  自分はこんな行為をしたことは一度だってないのに、どうしてこの感触に覚えがあるのだろう?と彼は戸惑った。  赤点をとった好喜が追試でいい点数をとれるように朔夜は勉強を教えに行った。好喜の家にいたら穣と角次もやってきて、気がついたら好喜の兄が持つAV鑑賞会が始まったのだ。 「俺は興味ないから」と断り、別室へ移動しようとした朔夜は捕まり、「男なんだから、おまえも見てけよ」と強引に同席させられたのだ。  内容は、男がよってたかって手足を拘束した女を裸にし、無理やり蹂躙するもの。  ひどい不快感と():視()()のせいで朔夜は吐き気を催した。その序盤に女は男の勃起したものを咥えさせられるシーンがあったのだ。  彼が気分を悪くしている間、好喜や角次、漢気を大切にする穣さえも腹を空かせた獣のような目をして、食い入るように画面を凝視していた。  ――朔夜の両親は大変仲がよかった。  父親の仕事が機動に乗ると母親と父親がふたりして夜遅くまでデートをしたり、子どもたちを祖父母に預けて旅行へ行くことも増えた。  その意味を小学生の高学年にもなると朔夜は理解していたのだ。  学校の勉強をしっかりやるタイプなので保健体育の教科書にも目を通していたし、小学校の理科の授業で「おしべ」と「めしべ」が受粉すると「種子」ができることが頭に入っていた。  何より思春期に誤って日向が発情期を起こしたとき、番契約をする可能性がもっとも高いのは、魂の番である朔夜だったから両親は、徹底的にり息子の性教育を行ったのである。  たとえ発情期が来ていても、オメガである日向の同意なく乱暴をすることはこの世で一番、してはいけない――恥ずべき行為だと教えた。  それでもアルファであり、男の本能によって夢の中で朔夜は日向の意思を無視し、彼を強引に抱いていた。何も知らない日向を自分のオメガにしようとした、()()()のように。  なんで陽炎が俺のものを舐めてる? だって、このとき、俺は――。  陽炎は朔夜のものをじゅぽじゅぽと卑猥に出し入れし、口の中に収まりきらない部分や睾丸を手で愛撫した。  骨の髄まで溶けてしまいそうな快感を味わいながら朔夜は、目をつぶった。力の入らない手で、日向によく似た丸い濡れ羽色の頭を撫でてやる。  目を細めて幸せそうに笑う日向と、無感動な目つきで朔夜の性器を口にする陽炎の像が重なり、朔夜の心臓は高鳴った。  陽炎は不敵に目を細め、喉の奥まで一気に朔夜のものを含んだ。 「ぐっ、う……かげろ……」  喘ぎながら朔夜は、日向によく似た陽炎の髪をクシャッと掴んだ。腰動かして喉の奥を突かないように気をつけながら両手を湯気でくもった鏡について、熱いシャワーを浴びながら吐息をこぼす。  朔夜の完全に勃起したものを一旦、陽炎は口から出した。血管が浮き出て膨張しきった男根の先は開閉し、陽炎の桃色の唇をカウパー液と唾液の混ざったものが汚す。彼は猫のように赤い舌を出し、唇へ伝った体液を舐めとった。 「いいんですよ、我慢しないで。いつでも出してください。このまま出します? 私は口に出していただけるとうれしいですけど」  朔夜の脈打ち、まっすぐに上を向いている太い棒を手で上下に擦りながら側面や切っ先へ舌を這わし、口づけ、挑発的な目つきをする。 「バカ、口に出したら、おまえが苦しい思いをするだろ!?」 「構いませんよ。本来、私は存在しないもの。この復讐劇で私はヒムカや日向の影、代役でしかありません」 「なんだよ、それ……?」 「私にできるのは、あなたたちが結末に向かう姿を傍観するか、都合のいい存在として現れることだけです」  そんな会話をしているうちに朔夜の目は見知らぬホテルの一室を映した。  朔夜のものに触れているのはガラス玉のような瞳をした陽炎ではなく、黒曜石のような瞳に涙を浮かべた日向だった。 「日向、無理するな。おまえのそんな顔を見たくてヤッてるわけじゃない」と朔夜の口は自動的に動いた。  まずいものを食べたような顔つきをした日向は緩慢な動作で顔を上げる。顔の前にかかっていた濡れ羽色の横髪を耳にかけ、朔夜のものを口から出す。 「駄目だね、僕。へたくそで、さくちゃんのことを、ぜんぜん気持ちよくできてない」  絹糸のようにさらさらとしている髪を整えてやった朔夜はしょげている日向に「そんなに気にするなよ」と頬へ口づける。「俺が気持ちよくなれるように、がんばってシてくれた。それだけで充分だよ。ありがとう」  朔夜の口は勝手に動いていたが、彼は不思議に思わなかった。以前そんな言葉をどこかで口にしたような気がしたのだ。  フェラチオをしていた日向の唇に触れるだけのキスをし、大きなダブルベッドの上に横たわらせる。  目に涙を浮かべた日向は両手で顔を覆い、「ごめんなさい」と声を震わせて謝った。

ともだちにシェアしよう!