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第16章 傷を舐め合い、痛みを共有する2

「さくちゃん……」 「だから安心しろ、日向。おまえの居場所は、ちゃんとここにある。おまえを苦しめようとする連中の言葉に傷ついたり、悲しんで、泣くな。俺がそばにいるから」  だが日向の不安は、朔夜の温かい言葉を耳にしても消えることがなかった。  自分が過ちを冒したことを誰よりも知っていたのだ。  もう昔のような「いい子」には戻れない。  日向の中には、アルファであり、みんなの王様である優しい朔夜を純粋に尊敬する気持ちがあった。それは幼い子どもの頃と寸分たがわず彼の胸の中で、キラキラと星のように輝いている。  だが朔夜への恋情は漫画やドラマの主人公が恋愛対象へ向ける爽やかで甘いものとは、まったく異なっていた。  アルファである朔夜をほかのオメガや女に取られたくない。誰にも渡さない。取らないで……。と心から願う日向の気持ちは、まるでドロドロとした黒いタールのようで、彼の心と体を急速に蝕んだ。  そして日向は恐れていた。自分が「悪い大人」になることを。  朔夜には見られていなかったが、菖蒲には確実に見られてしまった。父親である雪緒のように人を殴る姿を――。  そして日向は、おとぎ話に出てくる悪者のように逃げる光輝を追いかけ、今まで受けてきたことへの雪辱を果たそうとした。  本能に従い、人を身体的に傷つけ、ときには死にいたらしめる暴力という最低な形で光輝を黙らせようとした。人として理性的に頭を使い、言葉を用いて解決することを自ら放棄した事実を――日向はこれ以上、朔夜に知られたくなかったのである。

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