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第17章 世にも珍しい絶世の美少女2

「いやー、堅物アルファの朔夜でも、おれらと同じ男だろ。こう――かわいい感じの女の子に『好きです!』って猛烈アピールされたらドキッとするのかなって思ったんだよ」  好喜は目を泳がせながら空笑いをする。  こめかみに青筋を立てた朔夜は「しつけえな。そんなの天と地がひっくり返っても、あり得ねえんだよ。俺は女子に興味ねえっつーの!」と即答する。 「そうだよ、好喜くん。さあちゃんが、いくらかっこ悪いヘタレで、ぜんぜん女の子にモテない、傍若無人なアルファだからって、そんなことを言うのは、いくらなんでもひどいよ!? 人権侵害だ!」  突然、立ち上がった鍛冶が大声で叫んだ。  そんな鍛冶の様子に疾風はあきれ果て、心は目を点にしている。 「あんなこと言ってる張本人が一番、人権侵害してね?」  半笑いしながら、ボソッと角次はツッコミを入れる。 「ええっ……おれ、そこまで朔夜の悪口、言ってねえんだけど……」  涙目になったの好喜が小声で答える。 「急にどうしたんだ、鍛冶? おまえ、『賭けには参加しない』って言ってただろ」  穣が頭を掻きながら尋ねると鍛冶は「友だちであるひなちゃんに関係した話なら聞き捨てならないよ!」と胸を張る。  穣、角次、好喜は疲れた様子で愛想笑いを浮かべ、絹香は白い目で鍛冶のことを凝視し、朔夜は目くじらを立てていた。 「転校生の女の子が、もしも漫画や小説に出てくる絶世の美少女だったら、さあちゃんだって、きっとメロメロになっちゃうよ。それで、ひなちゃんのことを悲しませたり、泣かせるんだ。そうに決まってる」 「安心しなさいよ、鍛冶くん。こいつが、そんなことをした日には隕石が地球にぶつかって人類滅亡よ。ヘタレのさあちゃんは、ひなちゃんとふたりきりでデートをしたり、手をつなぐことやハグだって、できないんだもん」 「おい、おまえら、いい加減に……」  口元を引くつかせる朔夜に気づかない鍛冶は、畳みかけるように絹香へ話す。 「違うよ、絹香ちゃん。さあちゃんは、ひなちゃんが男だから何もしないんだよ。結局、ひなちゃんのことを恋愛対象として見てないんだ。アルファだから魂の番であるオメガのひなちゃんに気を遣ってるだけ。ぼくだって疾風くんとは友だちだけど死んでもキスするのやだもん。気持ち悪くて鳥肌が立っちゃう!」 「おれだって鍛冶とキスするくらいなら、美術室の胸像とキスするほうがマシだよ」  急に話題に出された疾風は心底うんざりした顔をして鍛冶の話に乗った。  目の据わった朔夜は無言のまま、鍛冶の頭に両の拳をあて、グリグリと圧をかけた。 「ぎゃあああ!」と鍛冶の悲鳴があがる。 「てめえはまた、トンチンカンなことを言ってんじゃねえ! 俺が日向を友だちと思ってる? アルファだからオメガにやさしくしてる? 的外れなことばかり言ってんじゃねえ!」 「だったら、なんでひなちゃんと、つきあわないんだよ!?」 「うるせえ! これは俺と日向の問題だ。外野は黙ってろ!」  教室にいる子どもたちは朔夜のガナリ声に気分を悪くしながら、「碓氷がいないと叢雲は手に負えないな」と日向が教室に帰って来るのを首を長くして待っていた。  噂をすれば影がさす。  教室のドアが開くと飼育係である洋子と日向が、うさぎや亀、文鳥たちへのエサやりを終え、帰ってきた。 「あれー、鍛冶くんがさあちゃんにグリグリされてるー。鍛冶くん、今度は何をしたのー?」 「ちょっと、さくちゃん。鍛冶くんに何をやってるの!? 鍛冶くん、大丈夫?」 「ひなちゃーん……」  慌てて日向は友だちである鍛冶と朔夜のもとへ駆け寄った。  しかし、その行為は火に油を注ぐようなもの。  日向が鍛冶を気にかけ、あまつさえ助けようとするので朔夜の機嫌は、ますます悪くなる。 「さくちゃん、鍛冶くんをいじめちゃ駄目だよ。なんで、そんなことをするの!?」 「いじめてねえ、叱ってるんだ! こいつのアホな言動には、つくづくウンザリさせられる。適当なことばっか言いやがって……!」 「なんかよくわからないけど、やめなって!」  そうして朔夜を引き剥がした日向は鍛冶に助け舟を出す。  助けてもらえた鍛冶は「うえーん、ひなちゃん……さくちゃんが意地悪するぅ……」とビービー子どものように泣いた。  事情を知らない日向は、泣き続ける鍛冶をなだめ、「なんでこんなことしたの、さくちゃん」と目で訴える。  日向に責められた朔夜は、まるで怒られた犬のようにしゅんと、うなだれる。 「鍛冶、おまえ、もう六年だろ。さっさと鼻を拭けよ」  見かねた疾風がズボンのポケットに入れていたポケットティッシュから出したティッシュを渡す。  鍛冶は疾風のくれたティッシュではなく、ポケットティッシュのほうを勝手に持っていき、鼻をかんだ。  そんな鍛冶の様子に疾風はしかめ面をし、日向は苦笑した。 「もうすぐ朝礼の時間よー。みんな、新しい担任の先生が来るわ。誰になるのかワクワクするわねー」と洋子が言うとタイミングよくチャイムが鳴る。 「洋子の言う通りね。そろそろ席に着かなくちゃ」「ああ、そうだな」とほかの者は、これ幸いと逃げた。  腹の虫が治まらない朔夜は、むしゃくしゃしながら席に着く。  ツンツンと背中をつつかれて後ろを振り返る。

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