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第17章 世にも珍しい絶世の美少女3
「ねえ、さくちゃん。一体、何があったの?」
朔夜の眼前には眉を八の字にした日向のかわいらしい顔があった。魂の番であるオメガの自分好みに整った顔立ちに見とれてしまう。
「絹香たちが賭けをしてたんだよ。俺がおまえ以外の人間を好きになるかどうかって」……なんてことは言えず「バカやってただけだから気にすんな」と答えた。
――ただの偶然なのか、それともふたりが魂の番だからだろうか、朔夜と日向はくじ引きで席替えを行うと毎回隣の席や前後、斜めの席になった。
植仲町の人口は少ない。お年寄りは毎年亡くなり、若者は町を出ていってしまう。子どもは毎年生まれているものの年々減少傾向だ。
だから朔夜たちの学年も一クラスだけ(それでも三十九人も生徒がいたし、小学校のほかの学年よりも一クラスの人数が多かった)。
一ヵ月に一度行う席替えで毎回ふたりが近くの席になるのは確率論的に考えてもおかしな話だった。
それは本人たちだけでなく他人がやっても同じこと。
歴代の六年生は四月になると全校生徒と教師を含めた給食室での席決めを行う。公平を期してあみだくじやネームプレートの神経衰弱をすると必ず朔夜と日向が隣や前後、斜めの席になってしまうのだ。
教師が運動会の組分けをするのに関数を組んだプログラムを作り、PCでやっても結果は同じ。何十回、何百回やっても朔夜と日向がペアになってしまう。
人為的に引き離さない限り、ふたりは一緒になってしまうのだ。
「そう? かなり怒ってるように見えたけど」
「鍛冶のやつが、ろくでもないことばかり言うからだ」と朔夜は眉間にしわを寄せる。
「もう鍛冶くんってば、しょうがないな」
呆れ顔で日向は、ため息をつく。
しかし、すぐに気を取り直して朔夜の耳元へ唇を寄せる。「ねえ、さくちゃん。転校生って、どんな子だろう。女の子だよね。仲よくできるかな?」
甘いバニラの香りと日向の囁く声に朔夜の心臓が鼓動を打つ。
「さくちゃん?」
頬が熱くなっていくのを感じながら朔夜は前を向く。
「んなもん知るかよ。光輝のいとこなんだぞ。仲よくする必要なんてねえ」
「さくちゃんってば、またそんなこと言って……光輝くんだって昔よりはおとなしくなったんだよ」
「人を欺く術を覚えただけだろ。大人の目があるところでは、いい子ぶってるから余計に、たちが悪くなった。根っこの部分は変わってねえに大人も、おまえも騙される。虎視眈々とほかの連中を攻撃できる隙がねえか、水面下でうかがってるのに」
「そうかな……? それより女優さんみたいに、きれいな子だって話だよ!? なんだかワクワクするね!」
日向がウキウキしている姿を目にして朔夜は顔を歪める。
「きれいっていうんなら、おまえんちの母ちゃんの右に出るやつは、この町にいねえだろ」
「お母さんは大人でしょ。そういう話じゃないってば!」
「なんでだよ? おばさんが美人なのは事実だ。うちの家族は全員おばさんのことを『きれいだ』って思ってるぞ。おかげで兄ちゃんの目が超えちまった!」
「うその話は、耳がたこになるくらい聞いたってば。さくちゃんのおうちは、うちのお母さんのことを高く評価し過ぎだよ」
「それに、」
「それに?」と日向は、朔夜の言葉を訊き返す。
「芸能界にいる容姿のきれいなやつが目の前に現れても、おまえのほうが中身も、外見もきれいだ」
そんな恋愛ドラマに出演する男優が口にする歯の浮くようなセリフを言えるわけもなく朔夜は、心の中でつぶやいた。
「もうすぐ先生が来るぞ」
前を向く朔夜に対して小首をかしげながら、日向は朔夜のふわふわした鳶色の頭を見つめる。
すると光輝たちが、ぞろぞろと教室へ入ってきた。
先頭に立つ光輝は朔夜へと目線をやり、次いで日向のほうを見た。底意地の悪そうな笑みを浮かべて席へ着く。
続いて黒い出席簿を手にし、明るい紺のスーツに深緑色のネクタイを締めた好青年がやってくる。
「おはよう、みんな。今日からよろしくな」
「水 島 先生!」と子どもたちは顔をほころばせた。
水島公 宏 は三年前に植仲小学校へやってきた植仲町出身の教師で、高学年を担当することが多い。
高校・大学ではテニスをやっていた爽やかスポーツマン。勉強や運動が苦手だったり、内気な子どもたちのことも決して見放さない、やさしい性格をしている。喧嘩が発生すれば、子どもたちの言葉をよく聞いてから仲裁したり、仲を取り持つ教師だったため子どもから好かれ、保護者である大人たちの人気も高かった。
水島は教壇の上に出席簿を置いて教室の中にいる子どもたちの顔を確認した。
「小さい学校だ。どうせ朝礼でも同じことを言うから長い自己紹介は簡略な」と快活な笑みを浮かべる。
「先生、太っ腹ー!」と角次が口笛を吹いた。
「校長先生のありがたーい話で足や腰、しりまで痛くなるもんな」
衛の発言に、教室内の生徒たちは一斉にどっと沸いた。
「辰 巳 、そういうことは思っても口にするなよ。校長先生が、おまえたちに話すな内容をちゃんと考えてきている証だ。まあ、気持ちは充分わかる。おれもあくびを殺すのに苦労するからな。でも、それはこの教室だけの話だぞ」
「了解です」
「せ、先生……転校生ってどんな子ですか?」
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