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第21章 じれったいふたりの距離5
朔夜は耳を疑った。まるで日向が自分を思い、希美に嫉妬をしているような口ぶりだったからだ。サッカーボールを追いかけ、ゴールを目指しているときよりも心臓の脈打つ速度は速くなり、大きく鼓動を立てる。
突然、日向は顔を真っ赤にして涙を両目から、こぼし始めた。
朔夜が、「どうしたんだ?」と訊くよりも早く立ち上がり、そのまま走り去ろうとする。
「日向!」
だが朔夜も素早く立ち上がって日向の手を掴んだ。
「離して、さくちゃん。僕……頭がおかしいんだ。こんなの変だよ……! きみの言葉が頭から、ずっと離れないんだ」
「言葉?」
「きみが昔、僕に掛けてくれた言葉。指切りをして約束し合ったこと、駆け落ちのこと、番になって結婚しようって話したこと、きみの魂の番だって教えてもらえたこと。それから、初めてきみに『好き』って言われたときのこと――全部、忘れられない。忘れたくないよ」
「おまえ、何言ってるんだ……?」と朔夜は首を傾げた。
「わかんない。自分でも何を言ってるんだろうって思う。もう……さくちゃんは僕に言ってくれた言葉も忘れて、僕なんて必要ないのかなって……昔のことなんて忘れて遠くへ行っちゃうんじゃないかって……すごく怖いんだ」
困り顔をした朔夜は日向の手を握る手に力をこめた。
「言っただろ。おまえが好きだ、って。俺は、日向の、日向だけの番 になりてえ。大人になったら結婚したいって思ってる気持ちもチビの頃と変わんねえよ。けどさ、大人じゃないから今すぐ叶えられねえ。だから……その……つきあってくれねえか」
「えっ……」
涙を目に浮かべたまま日向は、ゆっくりと振り返る。ゆでダコのように全身赤くなっている朔夜の姿が目に飛び込んできた。
朔夜は、好きな人に拒絶される恐怖や、あらためて思いを告げることにへの羞恥心と戦う。
真夏の太陽の下にいるような暑さを感じ、じんわりと日向の手を握る手や脇、足の裏に汗をかく。声を震わせながら彼は言葉を紡いだ。
「俺と恋人になってくれない……くれませんか……?」
「さくちゃん……」
朔夜の愛称を口にするだけで日向は告白の返事をしない。
じれた朔夜は、そっと日向の両手を手にとり、日向の瞳を覗き込むような形で近づく。
「……だ、駄目なのか? 恋人になったら、おまえの言ってたこと、全部、叶えられるんだぞ!? いつだって好きなときに頭を撫でてやる。デートして昔みたいに手をつなぎながら歩くことだってできるんだ。おまえがさびしいときも、つらいときもそばにいて話を聞くし、俺からも、もちろんいっぱいいろんなことを話す。元気のないときは抱きしめたり、き、キスだってする」
「さくちゃん、僕のこと、今でも好きでいてくれるの? 僕なんかの彼氏になりたいって思う? 男なのに?」
困惑顔で日向が尋ねると朔夜は、うれしそうに破顔する。
「当然だろ! そりゃあ……顔がすっげえ好みとか、魂の番であるオメガだから好きになったのも嘘じゃねえよ。けど、今は、それだけじゃねえ。おまえだから――日向だから好きなんだ。男とか、女とか、オメガだからとか、魂の番だなんて関係ねえ。おまえがおまえである限り、きっと何度でも恋をする。今でも、おまえのことが世界で一番、大好きだ!」
口を半開きにして目を丸くした日向は涙が貯まった目をしばたいた。
彼が何も言わないでいると次第に朔夜は元気をなくし、泣き笑いみたいな笑い方をする。
「といっても、なんもできねえ、弱っちいガキなのは昔と変わらねえけどな。坪内さんにはっきり言えねえし、光輝のオメガいじめもやめさせられねえ。ましてや、おまえのお父さんを――おじさんを止めることなんて夢のまた夢だ。でも! いつだって俺が日向のことを支える。
おまえを思う気持ちは、おばさんや、おまえのじいちゃん、ばあちゃんにだって負けねえ。誰よりも日向のことを大切にするって約束する。おじさんのぶんまで俺が、おまえのことを目いっぱい甘やかして大切にする。だから、だから……俺を選んでくれよ」
「恋人になったら、いっぱい、いやな思いをさせると思うよ」
「そんなの覚悟の上だ。オメガの恋人を持つアルファきとっては試練も同然だ」
「死ぬほどつらい思いをしたり、痛いこともあるかのしれないんだよ……それでも、さくちゃんは僕から離れたりしない……?」
泣くのを止めた日向は、か細い声で朔夜に問いかけた。
朔夜の燃えるように熱く、汗ばんだ手を、氷のように冷たくなった手で握り返す。
「もしも、もしも僕が、さくちゃんの思い描いた子 じゃなかったら、どうする? 本当は、すごい悪い子だったら? きっと……幻滅するよ」
「それって、どういう意味だ」
日向の言葉が理解できず、朔夜は首をかしげた。
だが日向は、その言葉にも返事をしない。
「きみが僕の本性を知って嫌いになるんじゃないかって不安なんだ。そうしたら番になったり、結婚することもなく別れて、友だちにも戻れなくなる。ただのクラスメート。顔と名前を知っているだけの人になって二度と会えなくなったら――」
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