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第22章 大きな変化1

 希美がやってくると日向は身体を強張らせ、朔夜は小さく舌打ちをした。  ふたりの変化に気づかない希美は、笑顔のまま、朔夜の腕に抱きつこうとする。  その光景を日向は黙って見ている。 「おい、そうやってベタベタするのは、やめてくれって何回も言ってるだろ!」と朔夜は腕組をすることで、希美に触れられないよう回避した。  だが彼女は、朔夜の腕に手をあて「ひどいわ。そんなことを言われると傷ついちゃう」と頬をふくらませる。  希美が幼い子どものように駄々をこねる姿を、日向は少しだけ羨ましいと思った。  坪内さんみたいにきれいでかわいい女の子がわがままを言っても、こんなふうに魅力的に見えるんだ……。せめて男である僕にも、彼女みたいな素直さや、傷ついてもへこたれない勇気があれば、さくちゃんに、もっと甘えることだってできるかな……?  彼の胸は、きゅうっと締めつけられるように痛んだ。 「それで、なんの用だ?」と朔夜が不機嫌そうな様子で希美に尋ねる。 「あなたがいつまでも教室に帰ってこないから、さがしに来たのよ。碓氷くんも一緒だったのね」  希美は冷ややかな目つきをして、日向のことを見下した。  普段から女の子らしく笑顔でいる希美が、汚物を見るような目で見てくる。たった、それだけのことなのに光輝のはさみで指を切られそうになったり、ニワトリ小屋に閉じ込められたときよりも日向の足はすくんだ。  居心地の悪さを感じた彼は、気まずそうに机の上にあったマフィンへと目線をやった。  朔夜は、不本意な形で隣にいる希美に対して、今日こそはっきり言って白黒決着つけようと彼女に話しかける。 「坪内さん、もう何十回も言ってるけど、俺には好きなやつがいる。そいつに誤解を与えるようなことはしたくねえんだ」 「好きなやつ」――その言葉を耳にした日向の心臓はドキッと大きな音を立てた。 「ぜんぜん朔夜くんに振り向かな子なんでしょ? 脈なしじゃない。あなたが心を砕いて、いろんなことをやってあげているのに一向に気づかないまま、おいしいところだけいただこうとしてる。そんなずる賢い人に、いつまでも思いを寄せるなんて意味がないことよ。朔夜くんの時間がもったいないわ」  自信満々な様子で自らの意思を強引に押し通そうとする希美に対し、毅然とした態度を朔夜はとる。 「無駄かどうかは俺が決める。それに、俺が、そいつに交際を申し込まなかったのがいけなかったんだ」 「……ねえ、知ってる? 地球上のほとんどの国では好きな人に『告白』をすることがないの。友だちや知人として遊びに行ったり、デートを重ねて、この人ってなっら、自然と手をつないだり、ハグやキスをするものよ」 「それがどうした?」 「告白されるまで、あなたの思いに気づかない子の、どこがいいのかしら?」 「決まってるだろ。全部だよ」と間髪入れずに返事をした。 「は? 何よ、それ」  予想外の答えが返ってきた希美は、器用に片眉だけ上げ、頬の筋肉を引きつらせた。 「あいつの容姿も、性格も、仕草や行動、言葉に至るまで全部、好きだ。だから言葉にして伝えた。『好きだから恋人になってほしい』って。今は返事待ち」 「っ!? 朔夜くんが頑張ってアピールをして、告白までしたのに即答しないなんて、どうかしてるわ。そんなおバカさんに構うには、やめなさいよ。望みなんてないわ。あなたみたいな上級アルファを好きになる子はベータやアルファにだっているのよ!? オメガなんかのどこがいいの?」  きつい顔つきをした朔夜は自分よりも数センチメートル背の高い希美の顔を見上げた。 「部外者である坪内さんが口出ししていいことじゃねえ。悪いけど、あんたにそんなことを言われる筋合いはないから。手、どけてくれないか」  ムッとした表情を浮かべ、希美は渋々ながら朔夜の腕にあてていた手をどける。 「俺の反応がおもしろいからって、からかうのもいい加減よしてくれねえか。マジで迷惑なんだけど」 「からかってなんていないわ! 私は、あなたのことが、ただ『好き』なだけ。それなのに、ちっとも本気にしてくれないのね」  ハラハラしながら日向は、ふたりの会話を見守る。 「あんたみたいに、しょっちゅう男からチヤホヤされてる女子が、俺みたいに容姿も、性格もよくない田舎者を構うとは到底思えない。何か裏があるんじゃないかって疑うのが普通だろ」 「そう思いたければ、そう思えばいいわ。でも、私の気持ちは本物よ。あなたを恋愛対象として見ていないのに、思わせぶりな態度をとっている子と一緒にしないで!」   そこまで言うと希美は黙ったままでいる日向を視界に捉える。 「ねえ、碓氷くん。どうして、あなた、朔夜くんと一緒にいたの? ねえ、なんで?」  突然、話を振られた日向は動揺する。 「そ、それは調理部だから。家庭科室で料理をしてたし……」と返事をする。 「あなたと同じ調理部の西(にし)(うみ)さんなら、とっくの昔に(じゃ)(くずれ)さんと一緒に教室に帰ってきてるわ。朔夜くんと同じサッカー部の(たつ)()くんや(あか)(ざけ)くんにマフィンを配っていたもの」

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