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第22章 大きな変化2
「日向は洋子と先生に片づけを頼まれたんだよ。で、俺も、こいつの手伝いをしてたんだ」
朔夜は希美を警戒しながら、日向へ助け舟を出した。
すると希美は「ええっ!? 碓氷くんったら、どんくさーい!」と小バカにした態度をとる。「もしかして西海さんから嫌われてるの? サッカー部の朔夜くんに手伝わせるなんて、ひっどーい!」
クスクスと希美は声を立てて笑う。
朔夜は、横にいる希美のことを「なんだ、こいつ」と内心思いながら睨みつけた。
日向は朔夜がイライラしているのをすぐに察知する。希美の言葉を肯定しながら、洋子に嫌われているわけじゃないとやんわり否定する。
「そ、そうなんだよ! 僕ってどんくさいから、さくちゃんが見かねて手伝ってくれたんだ。やさしいよね!? 洋子ちゃんも、すごくやさしいんだよ。今日、僕が料理中に失敗しても怒らないでフォローしてくれたんだ。『具合、悪いの?』って心配までしてくれた。お菓子作りを、ほとんど洋子ちゃんに任せちゃったから片づけは僕の仕事」
「へえ、そうなんだ。日向くんって社交辞令もわからない人なのね」と希美は日向をおとしめる発言をした。
「社交辞令? そういうものじゃないと思うけど……」
「西海さんも、朔夜くんも、とっても親切だし、やさしいわよね」と希美はトゲの生えた赤いバラののように可憐に笑う。「だから、あなたみたいなオメガにも手を差しのべるのよ。上級アルファである朔夜くんは寛大な心で、人よりも劣っているあなたに接しているだけ。碓氷くんがが『特別』だからじゃないわ。そこのところを勘違いしんしよう気をつけてね」
見るものを凍りつかせるような冷たい眼差しを向けられた日向は、それ以上何も言えなくなってしまう。
「適当なことばかり言うな!」と朔夜が口を開いて怒ろうとしたところで希美が「それにしても」と大きな声を出した。「西海さんも、かわいそうね。碓氷くんに足を引っ張られたりして」
「なんのこと?」
冴えない表情をした日向が訊き返す。
「ええーっ!」と
希美は目を大きく見開き、口もとに手をあて、オーバーリアクションをとる。
「碓氷くんが、わざと失敗ばかりして西海さんに意地悪をしている姿を『見た』っていう子たちがいるのよ」
「えっ……」
「碓氷くんは気分の浮き沈みが激しくて、お父さんと喧嘩するたびに周りの人に八つ当たりをするそうね。この間も、あなたの怪我を心配した光輝のことをひどく殴ったそうじゃない」
瞬間、日向は顔位を青くして身体を強張らせた。
「日向、どういうことだ?」と朔夜が戸惑いの声をあげる。
あの日、空や鍛冶、疾風に口裏を合わせてもらった日向は、父親から虐待されて負った傷や光輝に顔面を殴打された跡を偽ったのだ。階段で光輝と揉めている間に、自ら転げ落ちて負った怪我だと……。
普段から成績もよく品行方正な日向の嘘を担任は信じた。
一方、光輝たちは光輝たちで、日向の蛮行を担任の水島に告げ口せず、かといって日向を脅したり、いじめることもなかったので、朔夜の耳には何も届かなかったのだ。
それを希美が口にするとは夢にも思っていなかった日向は、頭の中が真っ白になり、言いわけをすることも、真実を語ることもできなくなってしまう。
「おとなしそうなあなたが人を殴るなんて信じられないわ。光輝が頬に湿布を貼って痛そうにしている姿を朔夜くんも見たでしょ?」
眉を下げた希美が朔夜に話しかける。
朔夜は眉根にしわを刻み、無言のまま日向を目に映していた。
その様子を満足げな様子で希美は見て笑みを深める。
「碓氷くん、あなたって無闇やたらに人を傷つけるのね」
「ちがっ……!」
「人畜無害そうな顔をして、たちが悪いわ。人って見かけによらないのね。こわーい!」
「それは……」
「理由があっても人を殴ったらダメよ。あなたが義務教育を終えていたり、大人だったら、どう? たまたま光輝が黙っているから問題にならないだけ。おじ様に言って警察に相談すれば、状況によっては、あなたや、あなたの家族を罪に問うことだってできる。だから少年院が存在するし、保護者の管理責任が問われるのよ」
普段、光輝と希美はいとこでありながら話している様子が、ほとんどない。
だが彼の取り巻きをやっている女子と希美は仲がよかった。
光輝のしゃべった内容が、光輝の取り巻きを通し、希美のところまで回った事実に日向は冷や汗をかく。なんとかして坪内さんと、さくちゃんの誤解を解かないと、と思っても考えがまとまらず言葉が出ない。
「あなたは自己保身のためなら簡単に人を殴る。オメガってだけでも最低最悪なのに、ベータである光輝に危害を加えるなんて、あなた、頭がどうかしてるわ。ねえ、朔夜くんだって、そう思うでしょ?」
「どうかしてるのは、そっちだろ。どこに目ぇついてるんだ?」と朔夜は侮蔑の眼差し彼女に向け、一刀両断した。
「な、何よ……碓氷くんのことを、かばい立てするわけ!?」
悔しそうに歯噛みした希美がヒステリックに叫んだ。
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