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第24章 ドキドキ初デート1※
朔夜は流行りの恋愛ソングを鼻歌で歌いながら祖母から譲り受けた年季入りの姿見の前に立っていた。鳶色の髪に寝癖がついていないか、服にほつれや汚れがないかを確認し、黒い合皮のミニ財布とPHSをカーキ色のブルゾンジャケットのポケットに入れる。
それから文庫本と電車の時刻表の書かれた紙、ポケットティッシュとハンカチ、メンソールの香りがするリップクリームにハンドクリーム、エピペンと抑制剤の入った茶色のボディバッグを肩にかける。
「なんだよ、朝から気合入ってるじゃん」
足袋を履き、弓道の白い道着の上から学校指定のジャージを着て、弓の入った弓袋と矢筒を持った燈夜が背後から声をかける。
「当たり前だろ」と朔夜が振り返る。「今日は日向と初デートの日なんだから!」
口もとをほころばせながら黒のキャップを手にする。
「兄ちゃんは弓道の試合だろ?」
「ああ、そうだ」
「父ちゃんの運転する車で会場まで連れて行ってもらうんだよな。悪い……俺だけ応援に行けなくて」
眉を下げ、すまなそうに謝る。
燈夜は特に気にするでもなく「べつにいいよ」と答えた。制服とゆがけ(手袋状の親指を保護する道具)の入ったスクールカバンを持ち、朔夜が手にしていたキャップをかぶせてやる。
「あくまで予選だからね。むしろ、おまえがいないほうが変なプレッシャーがかからなくて好都合だ」
「なんだよ、その言い方」
「やってる競技は違っても武道は武道。チビの頃から空手をやって、いろんな大会に出ているおまえに見られていたら、よけいに緊張するんだよ」
苦笑して燈夜は朔夜の肩を軽くポンポンと叩いた。
「なあ、兄ちゃん。……試合、がんばれよ」
「当然。地区大会までは、ねばるつもり。主将としてのプライドもあるからね」
「燈夜、そろそろ行くわよー」
真弓の声が一階からして燈夜は「わかった」と返事をする。「じゃあ先に行く」
「おう、必ず的の真ん中にあてろよ!」
「その言い方だとダーツみたいなんだけど……」
燈夜は、あきれ顔で半笑いをした。
「まあ、いいや。おまえも楽しんでこいよ、初デート。日向くんによろしくな」
「ああ、もちろんだ!」
やわらかな笑みを浮かべて燈夜は階段を下り、その後を朔夜が続く。
「いってらっしゃーい!」
父親の車に乗った兄と母を見送った朔夜は鍵をかけ、バス停の前に立ち、PHSを手に取った。
*
日向は真っ黒な空間の中にいた。
右も、左も、上も、下もわからない。
なんで自分は、こんなところにいるのだろう? と不思議に思いながら彼は、歩いていたのだ。
次第にあたりが、薄ぼんやりと明るくなってくる。
白い月明かりが差し、日向は自分が座敷牢のような場所にいることに気づいた。
大人の男たちが何十人もいる。
しかし彼らの顔は、黒いインクや墨汁で塗りつぶしたかのように判別できない。
なぜか、いやな予感がして日向は、その場を去ろうとした。が、強力な接着剤で畳の上に足をくっつけられたみたいに、動けなくなってしまったのだ。
なんだろう……この風景。僕は、どこかでこれと同じものを見 た 気がする。なのに思い出せない。
ズキズキと痛む頭を押さえていれば、前にいた男が席を外す。
瞬間、日向は顔を引きつらせた。
裸にされ、目隠しをされた男が、男たちに犯されている姿を目にしたからだ。
野ねずみを飲み、太くなったヘビのようなイチモツが赤く腫れぼったい肛門から出入りするたびに、白濁液があふれ出し、泡を立てる。
目隠しをされた男の白い両足が、水の中を泳ぐ魚のようにゆらゆらと揺れる。
彼の腹部や胸部には白濁液が付着し、勃起したものには射精しないよう根本を紐で結ばれていた。
両手に血管の浮き出た男根を握らされ、口の中にも栓をするように出し入れされている。
まるで息絶えた蝶に群がるアリだ。
男たちは目隠しをされた男を好き勝手に貪っていた。
日向は、まばたきをすることはできても、おかしなことに、まぶたを閉じることができなくなっていた。
同様に耳を手で塞ごうとしても耳もとの近くへ手をやったところで、ピタリと手が動かせなくなってしまう。
口を開き、声を出そうとしても、声帯をなくしたかのように言葉は空気となってしまう。
まるで操り人形にでもなった心地になりながら日向は、おぞましい光景を眺めていることしかできなかった。
涙を流しながら、日向は夢なら早く覚めてくれと強く望んだ。
「この儀式には魂の番であるアルファとオメガが必要だ」
目隠しをした男の胎内で射精し終わった男が笑う。
「ひとりは貴族の血を、もうひとりは武家の血を引いている。年も若い。生贄としては申し分ない人材だ」
男が犯される姿を眺めている男が、ほくそ笑んだ。
「おまえらは俺たちを散々コケにし、バカにした。――これは罰なんだ」
「墓もなく、死体を打ち捨てられたおまえたちは異形の存在と化し、永遠にこの世をさまよい歩け」
男たちの嘲笑う声に日向は戦慄した。
「おや……誰かそこにいるのかね?」
男たちのギラギラした瞳が一斉に日向のほうへ向く。
本能的に危険を察知した日向は逃げようとした。
だが足は一向に動かない、動こうとしない。
男たちの手がゆっくりとのびてくる。日向は心の中で「さくちゃん……!」と叫んだ。
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