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第24章 ドキドキ初デート2

 日向は目を覚まし、飛び起きた。ひどく寝汗をかいていて息が荒い。風邪を引いたときのように全身に悪寒が走る。  何? なんだか、すごく怖い夢を見ていた気がするのに、ぜんぜん思い出せない……。  彼は布団をギュッと掴み、息を整えた。 「日向、朝ごはん、できたわよ。今日は朔夜くんと出かける日じゃないのー?」  一階から明日香の明るい声がする。 「うん、わかってる!」と大きな声で返事をし、ベッドの布団を手早く整えた。  今日はさくちゃんと初デートの日なんだから、遅刻したら大変だよと彼は、気持ちを切り替え、出かける準備を始める。  一階に下りて顔を洗い、髪を整える。ニ階へ一旦戻り、前もって用意してあった服に袖を通し、バッグを手にする。 「おはよう、お母さん」 「おはよう。ご飯できてるわよ」  しいたけとネギの味噌汁が入ったお椀を食卓に出して明日香が席に着く。  湯気の立つ白米に焼き鮭、大根おろしが添えられただし巻き卵。おかかが上に載せられたほうれん草のおひたし、そしてレンコンの金平が机の上に並べられている。  ふたりは食事の挨拶をして朝食をとり始めた。  熱々の味噌汁を日向が飲んでいる最中、明日香は大根おろしをだし巻き卵の上に載せて口へ運んだ。 「今日は絹香ちゃんや洋子ちゃんたちも一緒にお買い物?」 「ううん、違うよ。どうしたの?」 「そうなんだ。……なんだか少し、いつもよりオシャレな格好をしているから女の子たちも一緒かな? って思ったの」  日向は、水色のジーンズジャケットの下に白のパーカーを着て、紺色のショートパンツに黒のハイソックスを合わせた。  彼が男であると知らなければ、芸能人のように容姿が整った、かわいい女の子にしか見えない格好だ。 「じゃあ、ほかの男の子たちと出かけるの?」  日向は箸を箸置きに置き、ひざへ手を置いた。 「今日は、さくちゃんとふたりだけで出かけるんだ」 「あら、珍しい」と明日香は箸で鮭をほぐし、白く細い骨を取りのぞく。「朔夜くんとふたりきりで出かけるの、もしかして初めてなんじゃない?」 「うん。あのね、お母さん」 「なあに?」 「僕――さくちゃんと付き合うことにしたんだ」  すると明日香は箸を動かす手を止めた。口を半開きにした状態で、まばたきを繰り返す。  どこか不安そうな顔つきをした日向が小さく「お母さん?」と声をかける。  目を細めて明日香は微笑する。 「そっか、そうだったんだね」と独り言を口ずさむように、つぶやいた。「いつからなの?」  やさしい顔つきをしている母親の様子に日向は安堵した。 「今週の水曜日から。さくちゃんから告白されたんだ。それで、『僕もさくちゃんと同じ気持ちだよ』って返事をしたの」  かすかに頬を上気させ、机の下で熱くなった手を握りしめ、足をモジモジさせていた。 「いつかは、そういう日が来るかなーって思ってた」と明日香は鮭を口に含んだ。 「……どうして?」 「だって朔夜くんは、出会ったときから『日向のことが好きだー』って態度をとっていたし、日向も日向で鍛冶くんや疾風くんみたいな新しいお友だちができても、『さくちゃん、さくちゃん』って朔夜くんのことばかり追いかけていたからね」  目を丸くしながた日向は「僕、いつもそんなふう?」と訊く。 「そうだよ」  ほうれん草のおひたしを器から取りながら明日香は、うなずいた。 「それに魂の番だからね。真弓ちゃんや耕助くんとも『いつ、ふたりは恋人になるかな?』って話してたんだ。わたしたちが思っていた以上に話が早かったけど」  恥ずかしそうに日向は顔をうつむかせ、唇を軽く噛んだ。  そんな息子の様子に明日香は目を細めた。  セーラー服を着て真弓や耕助とともに過ごしていた頃のことを思い出す。 「いいな、青春って感じで! だから、お風呂の中で歌を歌っていたのね」 「歌って、なんのこと?」  わけがわからず、日向は首をかしげた。 「もう日向ったら、恥ずかしいからって隠さないの。洗い終わった洗濯物を取りに行ったら、お風呂場から声が聞こえたよ」  声? 一体なんのことだろう?   陽炎と風呂の中で話した記憶がなくなっていた日向は怪訝な顔つきをして、眉を寄せた。  彼は昨晩のことだけでなく、ずっと昔から――それこそ生まれる前からそばにいてくれた陽炎の()()、そのものを忘れてしまっていたのだ。 「もしかして携帯をお風呂の中に持っていったの? いくら朔夜くんの声を学校以外でも聞きたいからってダメよ。お湯の中に落としたら壊れちゃう。修理の最中、家の電話を使って連絡を取るんじゃ不便でしょ」 「うん……そう、だよね。気をつける」  曖昧な笑みを浮かべ、日向は明日香の言葉に同意した。 「ほら、ご飯を食べて。早くしないとバスに乗り遅れちゃうよ」 「うん」  箸を手に取った日向は食事を再開し、朔夜とのデートの予定を母親に話したのだった。  青色のショルダーバッグを肩にかけた日向は、革製のショートブーツを履き、つま先を玄関の床でトントンと叩いた。 「日向、くれぐれもお昼のときは朔夜くんが桃や杏、セロリにピーナッツを食べることがないよう、充分気をつけてあげてね」

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