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第24章 ドキドキ初デート5
キスをするところを想像して何も感じなかったのに、さくちゃんの手が触れたら心臓が破裂しそうになるなんて、なんで……!? 手なんて幼稚園の頃に、いっぱいつないだ。消しゴムの貸し借りや手相占い、ふざけてやった腕相撲で何度も触ってるのに……! と内心頭を抱える。
「そっか、よかった。俺ばっかドキドキして、おまえのほうが余裕な態度をとるなんて癪 だからな」
いたずらが成功した子どものように朔夜は笑う。
「ほかの人もいるんだよ!? ときと場合を考えて……!」
柳眉を上げた日向は朔夜のほうを向き直り、小声で講義する。
「ふーん……いつも、やってることなのに? ただ、手に触っただけなのになー」
にやにやしながら朔夜は日向の手を離した。
「それにしても、ずいぶんと珍しい格好じゃねえか」と朔夜は日向の服装についてを話題に出す。
「なんか変? 合ってない?」
「いや、変じゃねえ。おまえに似合った色してる」
「じゃあ、どこが珍しいの?」
小首をかしげて日向が問えば、困ったように首の後ろを朔夜は掻いた。
「先に言っておくけど絶対に怒るなよ」
「うん、約束する」と日向は首を縦に振った。
「今日のおまえの格好さ――どこからどう見ても、女にしか見えねえ」
ああ、そういうことかと日向は納得した。
「……うん、そうだよ。こうすれば女の子だって周りの人も勘違いしてくれるでしょ」
「ああ、そうだな。おまえのことを知らないやつが見たら、女と間違え……って『そうだよ』!?」
目が飛び出してしまいそうなほどの衝撃を朔夜は受ける。大声で叫び、思わず席から立ち上がってしまう。
あれほど人から女の子と間違われると怒りだす日向が、自ら女の子に間違われるような格好をしたことに茫然とする。
『お客様、乗車中に立ち上がるのは大変危険です。また、大声で話すのは、ほかの方の迷惑となるため、お控えください』
朔夜の父・耕助の知り合いである運転手が、業務的な口調で朔夜を諭した。
乗車していた町の人間の視線が朔夜のほうへと集まる。
「すみません、お騒がせしました。申し訳ないです」とペコペコ頭を下げ、朔夜は椅子に座り直した。
「もう! 町のバスじゃなかったら今頃、非難轟々だよ!? 運転手さんに注意されただけでよかったね」
「悪かった。それより、なんでだよ? おまえ、人から女に間違われたり、女扱いされるの、めちゃくちゃいやがるのに」
幼稚園の頃は日向もよくショートパンツを履いて外を歩いていた。
だが頻繁に女と勘違いされ、おまけに光輝たちから「オカマ」呼ばわりされるのでショートパンツを履くことが自然となくなったのだ。
五月、六月の暑い日は七分丈のズボンを履くことが多いし、真夏でも半ズボンを履いている。そんな日向が素足を堂々と見せている。
スネ毛は生えておらず、うぶ毛も生えていないみたいに目立たない。傷ひとつない、きれいな象牙色をした、すらりと長い足を惜しげもなく出している。
足フェチの人間――特に男たちが脳内でよだれを垂らし、隙あらば触りそうだなと朔夜は複雑な胸中になる。
町の人間は、日向がオメガといえど男であり、朔夜の魂の番だとわかっているから、触手をのばすことがない。
しかし外の人間は違う。
芸能人のように整った顔立ちをしたオメガ、おまけに全裸にならなければ女と見まがう容姿をしている人物だ。儚げなのに、子どもらしくあどけない表情を見せ、スキだらけ。
ゲイやバイでなくとも少年好きだったり、少女好きの男が「男でも構わない」と食指が動きそうだ。変質者に狙われたり、アルファの悪い大人に声をかけられ、連れ去られる可能性も〇 ではない。
これは気合いを入れて周囲を警戒しないとな、と朔夜は心の中で拳を握り、闘志を燃やす。
「男の子が女の子とデートするのは普通のことでしょ。でも男同士ってなったら『気持ち悪い』って思う人もいるから」
唇をすぼめた日向は、口の中で飴玉でも転がしているように、しゃべった。
「そういうことか……」と朔夜は肩を落とす。
てっきり朔夜が、目いっぱい喜んでくれると思っていた日向は焦り始める。
「やっぱり無理があるかな!? 僕、成長して身長も一気にのびたし、昔みたいに女の子で通すの難しい!? さくちゃんに恥、かかせちゃう……? 僕が隣に歩くの変かな……」
「べつに恥なんてかかねえし、やべえ格好でもねえよ。似合ってる。ただ、おまえらしくねえなって思ったからさ」
「どういうこと?」
黒曜石のよう瞳をまっすぐ見つめながら朔夜は答えた。
「おまえが『今日は暑いから』とか『この格好が好き』って思って選んだのとは違げだろ。男の俺とデートするのに、無理して女に見える格好をしなくていい。俺たちはアルファとオメガで、おまけに魂の番だ。一緒にいても文句を言われる関係じゃねえよ」
「でも……」
不本意そうに日向は表情を曇らせる。
「同性だからってバカにするやつらの言うことなんて聞くなよ。奇異の目で見てくる連中なんだ。気にすんな。俺は、今日一日、おまえの笑顔をひとり占めしたくて誘ったのに最初から、名前も知らねえやつらの考えそうなことで悲しい顔されてると、つらい。そんなんじゃ、デートも楽しめねえよ」
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