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第24章 ドキドキ初デート7

 ためらうことも、拒むこともなく日向は、朔夜の手に自分の手を重ねた。  朔夜は日向の指先を握りしめる。  日向がバスのステップ台を降りると、ふたりは、どちらからともなく手をつないだ。  幼いカップルが仲よくしている姿に運転手は微笑む。 「じゃあな、ふたりとも。いい一日を過ごせよ」 「ああ、おじさんも。仕事がんばれよ!」 「ありがとうございました」  そうして運転手の男は手を上げ、バスの扉を閉めると駅のロータリーを回っていった。  朔夜と日向は顔を見合わせた。 「それじゃあ電車に乗ろうぜ。階段のほうから行くんでいいか?」 「うん、いいよ。行こう、さくちゃん」  日向が女の子のような容姿をして、服装もユニセックスなものを着用しているので、男同士で手をつないでも誰も咎めなかった。  ふたりは階段を上り終え、改札口を通る。ちょうど虎縞行きの上り列車がホームへやって来るアナウンスが流れた。今度は急いで階段を駆け下り、電車へ乗った。 「発車します」と扉が閉まった。  朔夜と日向は、一番端の席へ腰を下ろした。手が離れるのをお互いに名残惜しく思いながらも、そのまま並んで座る形になる。 「運がいいな。一本早い電車に乗れるなんて!」 「本当だね。これなら穣くんのプレゼントをゆっくり見る時間も、本を見る時間もできそう!」 「日向は、もう穣にやるプレゼントは決まってるのか?」  朔夜は日向のほうへ顔を向けながら尋ねた。 「うん、大体はね。穣くんの好きなサッカーボール型の小物にしようと思ってるんだ。キーホルダーとかペンみたいな文房具。さくちゃんは?」 「ハンドタオルにしようと思ってる。練習でも、試合でも何枚あっても困らねえ。中学に上がれば、ますます使う場面が増えるからな」と簡潔に答える。 「わかる! やっぱり運動部だったり、習いごとで身体を動かすことをやってるとタオルが必要になるよね」  日向が以前のように、お日様のような笑顔を見せてくれる。誰にも邪魔されず、ふたりで会話できる状況に朔夜は幸せだなと感じ、胸がぽかぽかと温かくなった。  水曜日に朔夜から釘を刺された希美はその後、借りてきた猫のように、おとなしかった。  光輝と普段から仲のいい女子とばかり話し、自分から積極的に朔夜へ話しかけることも、ベタベタとひっつくこともなくなったのだ。  朔夜自身が日向につきっきりで必ずといっていいほど「日向」と声をかけ、日向も日向で鍛冶や疾風と話すとき以外はずっと朔夜のそばにいる(ふたりは、穣の誕生日までは付き合い始めたことを友だちに言わないようにしていたが、片眉を上げて絹香が変な顔をしたり、衛がやさしい顔つきをして微笑んでいたことに気づいていなかった)。  良心的で純粋無垢な子どもだった彼らは、希美が「魂の番であるアルファとオメガが恋人になったんだから自分の出る幕はない」と身を引いたと思っていたのである。  このまま以前と同じように、いや、以前よりもずっと楽しくて、すてきな時間を過ごせると信じていた。 「なあ、日向」 「何? さくちゃん」 「俺を選んでくれて、ありがとな」  頬をかすかに赤く染めながら朔夜は礼を言う。改めて心の中で思っていることを言葉にするのは、なんだか照れくさいな、と彼は手元の黒いキャップへと目線をやる。 「急にどうしたの?」と日向は朔夜の横顔を見つめながら眉をひそめた。 「おまえと恋人になれて、デートして、昔みたいに手をつなげるようになったのが夢みたいで、すごくうれしいんだ。俺たちは魂の番だから、いずれは番になる。子どもの親になっても、おかしなことなんてない」  顔を朔夜と同じく正面に戻した日向は、無意識に右手を首の後ろとまわした。さりげなくえり足に触れるような仕草をしながら、うなじを隠したのだ。  そうして彼は、平静さを装いつつ同じ車両にいる人々の様子をうかがった。  恰幅のいい妙齢の女性は、口を開けてフガフガと鼻を鳴らしながら居眠りをしている。  ミニスカートを穿いた化粧ばっちりの女子高生は、出入り口の前で折りたたみ携帯を出し、長い爪でメールを打っている。  日曜出勤のサラリーマンらしき若者は、ノートパソコンをひざの上に乗せ、キーボードを無心で叩いているように見える。  電車に乗った見知らぬ人たちは、日向や朔夜を気にする様子もない。  しかしながら日向は、この人たちは僕たちの関係をどう思っているんだろう? 興味ないふりをしながら話の内容に耳を傾けて、心の中では、お父さんのように『男同士だなんて気持ち悪い』って思っているのかな? それとも『魂の番だからって子どものくせに大人の真似をして恥ずかしい連中』って見てる? と、よくない考えが次から次へとと頭の中に浮かんでくる始末だ。  背筋を伸ばし、足を閉じて居住まいを正した状態で、目だけを異様にキョロキョロとせくぁしなく動かしていた。 「でも俺は番になる前に、おまえとこうやって、どこかに出かける時間を作りたいって思ってたんだ。いっぱいデートして、いろんなところへふたりで遊びに……って、日向?」  朔夜に話しかけられ、慌てて視線を戻した日向は「ごめん、ぼうっとしてた」と右手を後頭部へ移し、苦笑いをする。

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