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第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにいられない関係1
朔夜と日向は目的のものを手に入れるために店内を見回った。
穣が高価なものをもらって困らないよう、それでいて彼が本当にほしいと望むものを、お小遣いで購入できる範囲でさがしたのだ。
「お待たせいたしました。こちら、お品物になります」
「ありがとうございます、助かります」
スポーツタオルの入った青い包装紙を女性店員から受け取った朔夜は会釈する。
人好きのする笑みを浮かべ、店員は決まり文句を口にした。
「恐縮です。またのご来店をお待ちしております」
隣にいた日向は、朔夜と手をつなぎ直し、微笑みかけた。
「やったね、さくちゃん! 思ったよりもスムーズに穣くんの誕生日プレゼントが買えちゃった!」
「だな! 買いたいものと大体似たようなのが運よく手に入った」
「この後、どうする? 本屋さん、見に行く?」
「そうだな」
朔夜は左腕につけた黒いデジタル時計を見た。文字盤には11:35と表示されていた。
「飯でも食いに行くか」
「うん!」
飲食店の多くは平日より土日が混雑する。ハンバーガー屋やファミリーレストラン、ラーメンで手早く昼食をとることもできる。
だが――「はい、これ」
「なんで父ちゃん? こんな大金、俺、もらえねえよ」
正月のお年玉でもないのに一万円札をもらった朔夜は、手の中にある紙幣と父親の顔を交互に見くらべた。
困ったような笑みを浮かべ、耕助は左手の人差し指で頬を掻く。
「店の皿洗いや店内の掃除、ゴミ出しをやってくれてるからな。そのお駄賃。本当は、こんなんじゃ少ないと思ってる。燈夜は意地でも手伝わないが、おまえは時間の合間に掃除や洗濯、味見とか手伝ってくれるだろ」
「それは『日向くんは』って、おふくろがガキの頃からしょっちゅう言ってくるし、できることが増えると、あいつが『かっこいい』って褒めてくれるから……」と朔夜は、ゴニョゴニョとしゃべりながら、目線を泳がせた。「だとしても、こんなものをポンともらえねえよ! 極貧生活は脱け出せても貯金だって湯水のごとくあるわけじゃねえ。だから兄ちゃんだって大学の寮に入る金を少しでも多くするためにアルバイトと部活を両立してる。俺も、日向も小学生だ。昼は牛丼屋や、うどん屋のチェーン店でも……」
「朔夜、それじゃあダメだ」
耕助は目を閉じ、首を横に振る。目を開けたかと思うと焦げ茶色の瞳をキラキラと宝石のように輝かせ、息子の両肩に手を置き、水を得た魚のようにイキイキとする。
「恋人記念すべき初デートだ。カッコつけてなんぼだぞ!?」
「べつに俺たち男だし」
「男同士なんて関係ない! 虎縞の駅ナカならイタリアンレストランと喫茶店があるし、駅の近くに天ぷら屋、蕎麦屋、料亭に懐石料理もある。『ありがとう』で受け取っていいんだよ」
耕助の気迫に押された朔夜は「そ、そうか。わかった、ありがとう」と目をしばたたかせた。
「ねえ、さくちゃん。今日行くイタリアンのお店、何がオススメ?」
日向は朔夜に目線を合わせて尋ねた。
「そうだな……パスタとピザが一番うまいし、目玉商品。父ちゃんと母ちゃんがデートしたり、高校時代の友だちとランチする場所なんだ」
「そうなんだ。さくちゃんのお父さんがオススメする場所なら絶対においしいところだね!」
「ああ、すっげえ楽しみ! ちなみに今日行くところはメニューが豊富だ。おまえだったら副菜の白身魚のカルパッチョや、丸ごと魚を一匹使ったアクアパッツァ、ランチメニューのスズキのソテーなんかも気に入りそう」
「わあっ、お魚もあるんだね!? 楽しみだな……」
ふたりで並んで歩き、レストランの前に到着する。
すでに店の前の椅子に十人以上の客が座り、呼ばれるのを今か今かと待っていた。
「……すごいね。お昼前なのに、もう行列」
「あっ、ああ……どうする?」
「うーん……さくちゃんとお話してれば、あっという間に時間が過ぎると思うから、このままでいいかな。さくちゃんは?」
せっかく食べたことのない料理を日向が楽しみにしているのだ。水を差すのも悪いと思った朔夜は「俺も腹がすげえ減ってるわけじゃねえし、待てる。名前を書いてくるから席取り頼んだ」
日向を最後尾の席へ座らせ、店の前にある記名台へ向かう。
記名台の下のほうには「混雑時は、お客様の人数によってお呼びする名前が前後する恐れがあります。何卒ご了承くださいませ」と書かれた張り紙がテープでつけられている。
紐づけされているボールペンを手に取り、ウェイティングリストの一番下に「ムラクモ、二名」と朔夜は記入した。
店内では、店員たちが料理やデザート、飲み物を急いで運び、厨房の料理人たちが手際よく調理する姿が見えた。
店を入ってすぐのところには長い黒髪の少女と男が談笑しながら座っている。自分たちと同じようにデートを楽しんでいるらしい。
ふと、どこかで見覚えのあるシルエットに「ん?」と朔夜は眉を寄せた。
「もう和泉 くんったら! 大げさなんだから」
「いやいや、そんなことないよ、絹香。マジなんだって。本当に鬼みたいなんだよ、監督! いつか髪の毛の中から角がニョキ! って出てくるよ、絶対に」
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