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第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにいられない関係2
和泉、絹香――その名前を耳にした朔夜は、ペンを静かに置き、そそくさと日向のもとまで逃げていく。
「おかえり、さくちゃん。名前、書いてきてくれて、ありがとう。ここ、座って!」
木でできた丸椅子の座面を、日向は右手で軽く叩いた。
立ったまま朔夜は、ぎこちない笑みを浮かべる。
「日向、やっぱり今日はここ、やめとかねえか?」
「えっ、なんで?」
すでに子ども連れの三人家族と大学生らしき四人組が呼ばれ、ゴールデンウィークを楽しんでいる女子高生三人組が店内へ入っていく。
日向は、店舗の出入り口付近の椅子へ座り直した。空席を間に挟んだ彼の右横には、首の座った赤子と、幼稚園か保育園に通っている子どもを連れた五人家族が並んでいた。
順調に列が進み、待っていれば、すぐ呼ばれる状況だ。
「いやー……店ん中が混雑してるからさ。もっと静かなとこは、どうだ? それか回転寿司。揚げ物屋だったら、白身魚や鮭、アジフライなんかもある。どうだ?」
朔夜の突然の提案に日向は困惑する。
一刻も早くこの場から離れたい……と、焦れている朔夜の気持ちを知るよしもない店員が、店の中から出てくる。
「申し訳ございませんが、お先に二名でお越しのお客様をご案内させていただきます。ムラクモ様、二名でお越しのムラクモ様はいらっしゃいますか?」
「ほら、さくちゃん。僕らの番だよ!」
えくぼを作り、口角を上げた日向は、立ったままの状態でいる恋人の上着のすそをつまみ、軽く引っ張った。
普段見慣れない日向の上目遣いを目にして、朔夜の胸の鼓動が高鳴る。
晴れた日の穏やかな午後、野原に咲く黄色いたんぽぽの花にまじった白い綿毛が、ふわふわと風に舞っていくのを眺めているような気分になり、頬をゆるませる。
はっと意識を取り戻すが、ときすでに遅し……「はい、ここです!」
立ち上がった日向が肩のところまで手を上げた。
ギャルソン姿の男性店員がメニュー表を片手に持ち、やってくる。
何やってんだよ、俺!? マジでバカなんじゃねえの! と朔夜は目をつむり、身体を縮こまらせる。
「お待たせいたしました。誠に恐れ入りますが本日は大変、中が混雑しております。そのため、ご案内できるお席が限られております。ご了承いただけますでしょうか?」
「大丈夫です。すごく、おいしいお店だって聞きました。大盛況ですね! ご飯、食べるの、すっごく楽しみです」
芸能人と大差なく美しい容姿をした子どもが朗らかな笑みを浮かべるのを目にした店員は、ふと仕事の忙しさも忘れ、まなじりを下げた。
彼らの後ろで、いよいよ朔夜は、この世の終わりのような顔つきで意気消沈する。
「お褒めの言葉をいただき、ありがとうございます。ぜひ当店のシェフたちがつくる料理を心ゆくまで楽しんでください。それでは、お席へご案内いたします。二名様、ご来店です」
「いらっしゃいませ」と店の中から声がする。
店員は、ふたりをレジ近くの二人がけの席へ案内した。
「こちらの席になります。荷物は、足もとのバスケットへお入れくださいませ。ただいま、お冷とおしぼりをお持ちいたします。メニューをご覧になって、お待ちくださいませ」
朔夜と日向が案内された席の隣にいたのは……イカと明太子の和風パスタを食べている絹香と、ホタテとプチトマトのジュノベーゼパスタを口もとへと運んでいる和泉だった。
朔夜を含め三人は表情を固まらせ、動きを止めた。
「絹香ちゃん! それに和泉くん!?」
目を丸くした日向が驚愕の声をあげる。
「えっ……もしかして、ふたりもデート? わあ、すごい! こんなところで会えるなんて」
ご機嫌な様子で日向は椅子に腰かけた。
その一方で朔夜は複雑な胸中になる。顔を合わせると、いつもいがみ合う、いとこの和泉と顔を合わせてしまったからだ。おまけに、その恋人である絹香にデートしている姿を見られてしまった。
なんで世の中は、こう、うまくいかないんだろう? 予想外なことばかり起きる。
朔夜は心の中で愚痴をこぼした。
「おお、日向くんじゃん! 久しぶりー。相変わらず、かわいいね」
モデルのように手足がすらりとのび、均整のとれた体つきをした甘い顔立ちの美少年は、ちゃめっ気たっぷりにウインクをする。
「こんにちは、ひなちゃん。こんなところで会えるなんて奇遇だわ」
絹香は、ここ最近の朔夜と日向の距離が近くなったのも合点がいったといわんばかりの笑みを浮かべた。
半袖の赤いタートルネックに千鳥柄のタイトスカート。学校では目にすることがない黒のパンプスを履き、耳にはパールタイプのイヤリングがつけられている。唇は、ほんのりと色がつく赤いリップが引かれていた。
幼馴染で姉のような絹香が、彼氏である和泉のために着飾っている姿を目にした朔夜は、大嫌いなモズクを無理やり口の中いっぱいに入れられたような顔をする。
「和泉、絹香。てめえら、なんでここにいる?」
朔夜はジト目で和泉を睨みつけ、席に着いた。
「見ればわかるだろ? デート中」
人好きのする笑みを浮かべた顔には「この状況で、そんなこともわからないのかよ?」と書かれていた。
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