181 / 184
第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにはいられない関係3
口もとの筋肉をひくひくとを引きつらせながら朔夜は、へたくそな愛想笑いを浮かべる。
夢にまで描いた、魂の番であるオメガとつきあい始めてから最初のデートだ。場の雰囲気を壊さないよう、いざこざを起こしてはならないと、自身を戒める。
「おまえも絹香と虎縞で飯、食ったりするんだな」
「当然さ。東京や千葉、神奈川へ行くには時間も、お金もかかるからね。ここまで電車で三十分。片道ワンコインだ。デートには、うってつけの場所だ。このレストランは外装も、内装もシャレていて、おいしいイタリアンが食べられるって有名だ。県のニュースに取り上げられたり、地域の雑誌で特集記事に取り上げられるほど有名だ。今日、初めて絹香と来たんだ。ねっ」
「……そうよ。ビックリするくらい、おいしいわ。価格も高いものから安いものまでそろっていて好きなものを選べる」
「だよね!? 本当に、ここに来て正解だったわ!」
子どものようにはしゃぐ和泉を見て、絹香は柔和な笑みを浮かべた。
朔夜は「おまえに娘はやらん!」と男を門前払いする父親のような顔をした。
なんで貴重な休み、それもデートのときに和泉と顔を合わせなきゃなんねえんだよ。よりによって隣の席とかマジ最悪……と眉間にシワを刻んだ。
最後の一口をたいらげた和泉は、緑のジュノベーゼソースがついた口もろを卓上のナプキンで丁寧に拭く。
「何も言わないんだな」
「はあ?」
「いつも人の意見に反対するおまえが俺と同じ意見になるなんて珍しい。なんだよ、女子にモテる俺の真似でもしてるわけ?」
頭にカチンと来た朔夜は「んなわけねえだろ」と、つっけんどんに返事をする。
和泉のいつもの手に乗るなと言い聞かせる。目線を目の前にいる相手へ――口は笑みの形になっているものの眉を八の字にし、まごついている日向へ話しかけようとした。が――「虎縞には店がごまんとあるのに、なんでおまえなんかと鉢合わせするかな。変だよ。おかし過ぎない? 俺の真似でもしたんでしょ」
「あの! それは、僕が……」
半笑いしている日向が口を開くが、「たまたまだ」と朔夜は遮ってしまう。「植仲町より大きくても都市部と比べたら大した面積じゃない。おまけに駅ビルの中で食事をしようと考え、チェーン店以外を選ぶとしたら、場所は限られる」
論理的に朔夜が説明するものの和泉は、「ふーん……」と頬杖をつく。「もしかして、おじさんに勧められたから入ったわけ? その年にもなって親の言うことをすんなり聞くなんて、相変わらず、おもしろみの欠片もない、まじめちゃんだな」
その言葉を耳にした途端、朔夜は器用にピクと片眉を上げた。
メニュー表を手にした日向はハラハラしながら朔夜と和泉の顔を交互に見つめる。
テンションが下がっていくのを感じながら、絹香は、ひそかにため息をついた。
仲裁に入ったところで、和泉は朔夜のいやがる言葉を延々と口にし続けるのだ。そんなことに関われば、せっかくのパスタが、のびてしまう。彼女は、銀色のフォークを手の中で回し、昼食を食べ終えることに専念したのだった。
和泉と朔夜は横目で睨み合いをしながら、ほかの料理を食べている人たちの邪魔にならないよう、声のボリュームを抑えて会話を続けた。
「今年で十二。来年には中学に上がるのに、パパやママの言うことを素直に聞く、優等生のいい子ちゃんは、いいねえ。そんなガキっぽくて恥ずかしい真似、俺はできないよ。読書が好きとか言いながら、自分でデートの情報収集もしなかったの?」
「リサーチなら、ちゃんとした。雑誌や書籍、Webサイトも確認済みだ」
「ふうん、そっか。それは、ご苦労様。俺は友だちからも意見聞いたけどね」
すると今度は朔夜が「そうか。で、親の言うことを聞いて何が悪いんだ?」とまともに言い返す。「両親がいつも、いつまでも健在だと思っているほうが、どうかしてる。いつ不慮の事故や天災に巻き込まれるか、わからねえ。だから俺は、『今日が、おふくろや親父に会える最後の日かもしれない』って思って生きてる」
「うっわ、ドン引き! そんな後ろ向きなことを日々、考えてるとか、ないわー」
すかさず、おどけた様子で和泉は、朔夜の言葉を真っ向から否定した。
「ていうか発想が、おじいちゃんかよ!? おまえ、どんだけ根暗なわけ?」
頭へ一気に血が上り、朔夜は「日向とデートを楽しむ」という目的も忘れ、「魂の番とつきあえるようになったやつが人生、楽しんでないように見えるか?」と煽り返したのだ。「刹那主義で、その日一日のことしか考えてない、人生お気楽なおまえと一緒にするな。こっちはこっちで、あれこれ考えて人生設計してんだよ。第一、親になんでも反抗すれば大人だと思ってるやつに、あれこれ言われたくねえ。その金だって、おまえのもんじゃないって、わかんねえの? そっちのほうがダセえわ」
ぷっと和泉は吹き出し、肩を揺らしてケラケラ笑う。
「ダサい? その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。もっさい田舎の兄ちゃん丸出しの言葉遣いに、幼稚園のガキの頃から変わってない髪型。雑誌読んでるとか絶対、嘘でしょ。少しは、はやりのスタイルでも入れれば?」
ともだちにシェアしよう!

