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第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにはいられない関係4

「はやりや外見を重視して、目先のことばかり考える。人の容姿をバカにするなんてマジで信じられねえよ! お里が知れる。おまえの親も、こんなボンクラ息子のせいで頭を抱えてるだろうな。親の言うことも、まともに聞かないで……ああ、頭の中が空っぽだから先のことなんざ、なんも考えられねえのか」 「……なんだと?」 「こっちのセリフだ。なんか文句あんのかよ?」  一触即発な雰囲気になっているふたりを前にして、日向は肩身の狭い思いをする。彼は助けを求めるように絹香のほうへと視線を向けた。  しかし絹香は、我関せずな態度で黙って食事を続けていた。机の上にあるアイスコーヒーの入った透明なグラスを手に取り、赤い縞模様の入った白のストローから、ガムシロップをたっぷり入れた黒い液体をチューと吸い上げる。  ――和泉と朔夜は親戚だ。朔夜の父親である耕助の実家・(はたけ)(やま)の人間。ベータばかり生まれる家で、アルファ至上主義な家とは関わり合いたくないと親族は思っていた。  が、耕助が心に決め、婿入りしたいと願った真弓は、アルファ至上主義の家の血を引く。  耕助の両親や祖父母、和泉の両親などは、最初いい顔をしなかった。  しかし叢雲本家と縁を切った朔夜の祖母・(あずさ)の教育の賜物、真弓はバース性の差別は絶対に行わない人間だったため、ふたりの結婚を許した。  畑山の家は、例外的に梓や真弓、燈夜、朔夜たちに親切だった。  ところが朔夜と一歳違いの和泉は、オメガからアルファになったことをこれみよがしに自慢する朔夜を嫌い、突っかかることが多かったのだ。  朔夜も朔夜で売られたケンカは、すべて買う性根。  ふたりは犬猿の仲だった。  朔夜には、ひどい一面を見せる和泉だが、女の子や女性にはやさしいので人気が高い。  日向も彼には世話になっていた。  朔夜が体調不良で学校を休むと、光輝たちに意地悪をされる。そのたびに助けてもらっていた。  恩人と恋人が、今にも互いの胸ぐらを掴まんばかりの状態で、日向は「見て、さくちゃん!」と机の上に広げたメニュー表を指で叩く。「アクアパッツァって、この料理のことなんだね!? 僕、イタリア料理は詳しくないから、てっきり、お魚の入ったパスタかと思ってた。すごい! お魚が丸ごと一匹使われてる。アサリとお野菜も、たくさん入ってるよ!?」  すると朔夜は和泉と無言で火花を散らし合うのをやめ、頬をゆるませ、日向に笑いかけた。 「だろ!? ここ、魚料理も多いから、魚好きなおまえなら、きっと喜ぶと思ったんだ!」  眉間にしわを刻み、人を殺さんばかりの目つきをしていた朔夜が、いつもの笑顔を見せてくれて日向は、ほっと胸を撫で下ろす。  そんな日向を目にした和泉は頬を掻きながら、バツの悪そうな顔をして、ホットのエスプレッソコーヒーが入った白い陶器のカップに口をつけた。 「でも、こんなに入るかな? デザートのケーキも食べてみたいけど……さくちゃんは何を食べるの?」 「そうだな、マルゲリータピザにアンチョビとケッパーのピザ。後はシーザーサラダ」 「そっか。うーん……」と日向は考え込んでしまう。 「残ったら俺が全部、食べるよ」 「えっ、さくちゃんが?」  思わず日向は訊き返した。  基本的に食べものを残さないものの、ほかの男子と比べて朔夜は少食だった。  給食の時間に、おかわりをすることも六年間で、一度もなかったのだ。 「なんか、おまえとつきあうようになってから異様に腹が減る。でも体重は、ぜんぜん増えねえんだよ」 「もしかして……さくちゃんの背、高くなるかもしれないね!?」  はにかみながら朔夜は「だと、うれしいんだけど」と鼻の頭を掻く。「だから好きなもん、取れよ」 「……いいの?」 「ああ、誘ったのは俺だからな。サラダ、少し、食べるだろ? オリーブも大丈夫だよな? 一緒に食おうぜ」 「――うん! ありがとう」  日向は、お日様のような笑みを浮かべた。  朔夜は笑みを浮かべたまま日向へと目線をやる。  フォークを皿の上に置いた絹香は、「完全にふたりの世界ね」とやさしい声色で話し、ナプキンで口もとを軽く押さえた。  両眉と両肩を上げた和泉は「ああ、見ているこっちが恥ずかしくなるよ」とニヒルな笑みを浮かべる。 「お話し中のところ失礼いたします。お待たせして申し訳ございません。お冷とおしぼりでございます」  先ほど日向と朔夜を案内したギャルソンの男が、銀色のトレーを持って、やってくる。トレー載っていた透明なグラスと、白い半透明の袋に入ったおしぼりを彼らの前に置く。 「ありがとうございます」  男性店員は日向に微笑みかけ、日向も笑い返す。  そんな彼らの様子に少しムッとしながら朔夜は、恋人へ声をかけた。 「日向、もう頼みたいものは決まったよな?」 「うん。先に頼んでもいい?」 「ああ、もちろん。大丈夫だ」  ギャルソンはトレーを脇に抱え直し、すかさずエプロンの中に入れていた黒の伝票ホルダーとペンを取り出した。  日向は、悩みに悩んだ末アクアパッツァでなく、ランチセットのスズキのソテーを選んだ。アイスミルクティーにコーンスープ、ライス、食後のデザートにズコットを頼む。  朔夜はアイスティーのレモンに先ほど話したピザとサラダ、それから黒と緑のオリーブを頼んだ。

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