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第25章 顔を合わせると、いがみ合わずにはいられない関係7

 当時の空は、住み慣れた町から引っ越し、学校を転校。  新しい父親は、じつの父親とは、まったく違ったアルファ至上主義。空の母親を気に入っているとはいうものの亭主関白で、家のことや子どものことは、すべて丸投げ。  兄となった光輝は、意地悪こそしてこなかったものの、いないものとして無視。口もきいてもらえなかったのだ。  クラスでひとり、ポツンといたところに日向がやってきた。 「ねえ、一緒に遊ばない?」  たとえオメガで、魂の番であるアルファがいたとしても、日向に対し、空が淡い思いを抱くのは無理もない状況だった。  最初からかなわぬ恋をしていた空は、日向が笑顔でいるところを見て、多少言葉を交わせれば、それで充分だった。  空のことを頭に浮かべながら絹香は思った。  ――あたしには、さあちゃんの一方的な片思いにしか見えなかった。ひなちゃんが、さあちゃんを恋愛対象として、魂の番であるアルファとして見ているふうには、あんまり感じられなかったけど。  今日、偶然会わなきゃ、穣くんの誕生日まで気づかなかったわ。でも、まもちゃんは「うまくいったな」って言ってたから、ふたりの関係に気づいてたのか。皮肉だけど坪内さんのおかげ? 怪我の巧妙?  なんで、ひなちゃんは、さあちゃんとつきあうことにしたんだろう? ……と絹香はフォークを白い皿の上に置き、料理を見て喜んでいる日向のほうへ目をやった。  心は、ひなちゃんがさあちゃんを好きになっていることに、いつから気づいていたのかしら? と不思議に思いながら和泉へと声を掛ける。 「そろそろ行く?」  和泉は左腕に巻いた腕時計へ目線を落とす。 「ああ、そうだね。行こっか」  伝票を手にした和泉と黒革でできたカバンを肩に掛けた絹香が席を立った。 「なんだよ、絹香。もう帰っちまうのか?」  緑のオリーブを口に運んでいる最中の朔夜が眉をひそめた。 「えっ、ふたりとも、もう行っちゃうの?」と日向も残念そうに声をあげる。 「ああ、そうなんだ。ごめんよ、日向くん」 「あたしも穣くんの誕生日プレゼントを買っておきたいもの。彼氏である和泉くんにアドバイスをお願いしたってわけ。でも中間テスト一週間前で夕方から夜にかけては、おうちデート」 「勉強がまるっきしできないやつってレッテルを貼られるのは、ごめんだ。赤点だと補習で部活の時間が少なくなるからね」と和泉は爽やかな笑みを浮かべる。 「そっか、中学生って大変だね」 「まあね、小学生のときよりもやることが多いし、勉強に、部活、恋愛もって毎日が目まぐるしいからね。でも小学生のときよりもできることが一杯ある。大人に一歩近づいた感じがするよ」  前髪をかきあげ、カッコつけている和泉の腕をグイグイ引っ張って歩く。 「そういうわけだから、また明日。学校で」 「絹香ちゃん、ごちそうさま! またね」 「和泉、絹香に迷惑かけんなよ」 「おまえじゃないんだから、そんなことしないよ」 「和泉くん、さあちゃんに言い返さなくていいの……! じゃあね、ふたりとも!」  そうして手を肩まで上げて絹香と和泉は会計を済ませ、レストランを後にした。  すると朔夜は全身から余分な力を抜き、天を仰いだ。 「あー……ようやく静かになったな」 「すごくにぎやかだったね!」 「にぎやかっていうか、あいつら、嵐とか台風みたいだったな。ガーッと周りをかき回して、通り過ぎたら一安心ってやつ」 「ちょっと、その言い方はひどいんじゃない?」 「事実だろ? 和泉のやつ、いちいち突っかかって来やがって。俺と日向のデートを邪魔すんじゃねえっつーの! 初デートなんだぜ? おまえとの楽しい時間は一秒だって無駄にできねえよ」 「もう、さくちゃんってば……」  幸せそうな笑みを浮かべながら日向はサラダを取りわける役を買って出た。木製の箸入れから出したフォークとスプーンを動かす。黒胡椒がたっぷりきいたシーザードレッシングのかかったサラダを小皿にわけた。 「はい、さくちゃんのぶん」 「おお、サンキュー。助かる」  快活な笑顔を見せる朔夜に、日向は微笑み返す。自分のぶんのサラダを小皿に入れ、白いナプキンの上に置いたフォークを手にする。  濃厚なチーズと軽やかな牛乳の混ざったまろやかな味わいが野菜の苦味を緩和していた。レモンの爽やかな香りがチーズの独特な臭みを消し、胡椒のピリ辛さがアクセントになっている。 「絹香ちゃんが、和泉くんとつきあい始めたって聞いたときは意外なカップルだなって思ったけど、ふたりとも息ピッタリだよね」 「まあ、な。いつも女にチヤホヤされているようなやつだから絹香を、すぐに泣かせるかと思ったけど、あいつなりに大事にしてるみたいだしな。後、尻に敷かれてる」  そう言って朔夜は、レタスとゆで卵の混ざったサラダを()(しゃく)し、日向の言葉にうなずいた。  日向と朔夜は会話し、昼食の時間を楽しんだ。 「――ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」  会計を済ませ、朔夜は財布をしまった。 「ごめんね、さくちゃん。奢ってもらっちゃって……」  申し訳なさそうに日向が謝る。 「そこは、ありがとうでいいんだよ」と朔夜は笑った。「親父が渡してくれたんだぜ? 『ふたりでいいもの食べて来い』って。だから、あんま気にすんなよ」

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