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第5話

「ご注文の際はこちらのベルでお呼びください」 席に案内しておしぼりとお冷やを出したあと、そう告げて離れようとすると。 「あ、すみません。カフェオレとアップルシナモントースト、お願いできますか」 ふわりと笑みを浮かべながらそう告げるお客さん。 すらっと伸びた指はメニューを指している。 あまりにも理想的な、その振る舞い。 思わず見惚れてしまって、反応が遅れてしまった。 「かしこまりました。少々お待ちください」 あたふたしながらカウンターに戻って、マスターに注文を告げる。 ぱたぱたと顔をあおぎながら、溜まった熱を冷まそうとしていた。 格好良すぎる、だめ、あんなの。 自分が男の人に惹かれる質なのは、前から感じていた。 それに加えて、高校時代にはSubだと診断されて。 マイノリティの中でも、更に隅っこにいるような感覚で毎日を過ごしていた。 徐々に受け入れて、やっと自分がぴったりはまった感じがした。 それは僕自身嬉しいことではあるけど、その分自分の好みが分かりやすくなった。 おまけに態度にも出てしまう始末だ。 “落ち着け”と息を吐いて振り向くと、カウンター越しにお客さんと目が合った。 気を抜いていたわけじゃないけど、すっかり忘れていた。 この位置だとお客さんに行動が全部見られてしまうんだ。 「あ、あの……すみません……」 「いいえ。店員さん、お疲れですか?」 「いえ!あの、ちょっと。動き回ってて暑かったので」 下手な言い訳だなぁ、なんて思いながらぎゅっとエプロンを掴む。 恥ずかしさでさっきよりも暑いくらいだ。 「先日いらした時……手、火傷とか怪我とか、大丈夫でしたか?」 せっかく声をかけたのだから、と間をつなぐように会話を始めてしまった。 僕が尋ねると、お客さんは少し驚いてから答える。 「えぇ、冷め始めていたので。火傷も怪我も大丈夫です」 ありがとうございます、と紳士的な笑みを浮かべるお客さん。 首を振ってお辞儀をすると、お客さんは言葉を続けた。 「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。でも、覚えていただけたのなら嬉しいです」 「……え?」 「とても人当たりの良い方だと思ったので。お店の雰囲気も好きですし、一息つくならここにしようかなって」 かぁっと、顔に全身の熱が集まっていく感覚がした。 あまり貰えない、嬉しい言葉。 もしかして褒められたのかなと、幸せで頭がふわふわしてくる。

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