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第6話
あぅ、と言葉にならない声を出して、僕は嬉しさのあまり顔を上げられなくなってしまった。
「あ……すみません、俺。何か気に触ることでも……」
「ちがっ!……い、ます。僕、うれしくて」
否定をしたあと、深々と頭を下げる。
お客さんからクレームは入るけど、嬉しい言葉は中々入ってこない環境。
周りの親しい人たちから言われる褒め言葉よりも、今その言葉が僕の中には深く深く沁みる。
「お客様にそう言ってもらえるのが、何よりです」
言葉では、そう言うけど。
本当はもっともっとこの嬉しさを伝えたい。
「ふーくん、出来たよー」
キッチンからマスターの声が聞こえてくる。
喜びに浸っていたがはっと我に返り、返事をした。
「ご注文の品、お持ちしますね」
失礼しますとはけた後、お客さんは何かつぶやいていたみたいだ。
「……あの店員さん、かわいすぎだろ」
*
お盆にカフェオレとアップルシナモントーストを乗せ、カウンターに持っていく。
お客さんは肘をついて、手で顔を覆っていた。
「失礼します……お客様、どうかなさいましたか?」
少し顔を覗くように尋ねると、ぱっとお客さんは顔を上げて笑った。
「いえ、何でもないですよ。あ! すごい美味しそう!」
僕を見た後、視線はお盆に向く。
目をキラキラさせて少し声の上がったお客さん。
落ち着いた雰囲気からは想像できない、子供のような反応。
「ごゆっくりどうぞ」
料理とカフェオレ、カトラリーを置いてそう告げると、お客さんは落ち着きを戻したようだった。
カフェオレを一口飲んだ後、ナイフで切ったトーストを口に運ぶ。
顔を綻ばせながら楽しむ様子を見ていると、僕自身の胸も高鳴っていく。
綺麗な所作は、さらに上品さに磨きをかける。
シャツと手袋の隙間から見える肌は白く滑らかだ。
全体的に柔い色で、髪や瞳の色も茶が強い。
要素を一つ一つ上げていくごとに、彼が眩しく見える。
また、目が離せない。
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