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第11話
閉店時間を迎え、片付けに取り掛かる。
僕は店内の掃除を、マスターはキッチン周りの整理をしていた。
すると、看板を下げに行ったきなりくんが僕の肩をとんとん、と叩く。
「美作さん、お店の前で待ってたよ」
「えっ! もう、待ってるんだ」
あまり待たせすぎては申し訳ない、といつもより気持ち急いで仕事を進める。
売り上げの計算をしているマスターに声をかけ、先に着替えをして上がる。
どうやら気持ちが顔に出ていたらしく、きなりくんとマスターからにこやかに送り出された。
*
扉をあけて、視線を左右に動かす。
出て左側、店と店の間にあさひさんは立っていた。
「あ……あさひ、さん?」
呼びかけると、遠くを見つめていた視線がこっちを向く。
「ふーちゃん、お疲れ様」
ひらひらと手を振りながら、あさひさんは僕に歩み寄る。
ちらりと僕の姿を見て、少し嬉しそうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「いや……ふーちゃんの私服、始めて見るからさ」
カフェは黒シャツに黒いパンツが制服になっている。
確かに、あさひさんに私服を見せたことはなかった。
あさひさんの服装に比べると、ラフでゆったりしたシルエットの僕は……なんだか似つかわしくないようにも思えてきた。
「僕、こんな格好でも大丈夫な所ですか?」
「気にしないで。今日は話がしたいから、大通り抜けたところのレストランでも行こうなかって」
言われた場所で思い当たるのは、家族づれでも行きやすいレストラン。
どうやらそこまで気にしなくてもいいようだ。
確かに話をするだけ、と考えたら変な緊張もしなくなった。
行こうか、と歩き始めたあさひさんについて僕も歩き出す。
僕より10センチくらい大きな背。
たまにモデルとしても活動しているらしく、とても納得できるスタイルをしている。
「なんか、お店の外で会うと雰囲気違うなぁ……」
ポツリと僕を見つめながら、あさひさんが呟く。
いつもと違う、少しだけ熱っぽい目。
「やっぱり可愛いよね、ふーちゃん」
そう続けられて、僕はただ顔を赤くすることしかできなかった。
可愛い、だなんて。
普段なら喜ばないはずの言葉が、すっと心に馴染む。
確かに感じた、満足感。
「あの、あさひさん」
言葉を続けようとすると、怒鳴り声が響いてくる。
びくりと体が震えて、僕もあさひさんもその声の方を向いた。
どうやら、この先にある大通りで揉めている声らしい。
怒鳴っている人の視線の先には、蹲って許しを請う……
「酷いな、こんな場で叱るなんて……」
あさひさんがそう言う間も、僕はその人たちから視線を動かせずにいた。
「違う道を通って行こうか。こっちに……ふーちゃん?」
あさひさんに声を掛けられているのは、聞こえている。
それでも僕はDomの力を目の当たりにして足がすくんでしまったままだ。
こんな風に、バレたくないのに。
言葉を紡ごうにも、肺が硬くなったみたいに息がうまくできない。
「……文弥、俺を見て」
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