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第12話

「俺を見て」の言葉は、ストレートに頭に入ってきた。 なんの躊躇いも無くあさひさんを見ると、満足したように笑いかけてくれる。 「ありがとう、良かった……歩ける?」 こくりと頷いて、少し先に進んでいたあさひさんのところまで向かう。 目の前まで行くと、あさひさんは「よし」と笑ってくれた。 コマンドも目立った褒め言葉もないけれど、ざわざわしていた心が落ち着いてくる。 「レストランは……また今度。俺の家でもいい?」 「あさひさんの、お家?」 「うん。ごめんね、聞きたいことがあるから」 真剣さが混じったあさひさんの瞳。 聞かれる事は、分かっている。 その話を公の場でしないと判断してくれる気遣いが嬉しかった。 「分かりました」 僕がそう答えると、あさひさんは僕の背中に手を添えて歩き出す。 まだ怒鳴り声と謝る声は聞こえ続けていたけれど、さっきみたいに怯える事はなかった。 手袋と服に隔たれていても、背中にあるあさひさんの手がとても暖かかった。 * 歩いて15分ほどで、あさひさんのマンションに着く。 ロックを解除してエレベーターに乗り、部屋に案内される。 中は木目調の家具で統一されていて、とても落ち着く雰囲気だ。 「そこに座って。冷たいお茶でいい?」 「はい、ありがとうございます」 肩をすくめながら、テーブルの近くに置いてあるクッションの上に座る。 ふかふかするそれに気が抜け、ふっと笑ってしまった。 お茶を持ってきてくれたあさひさんは「何かあった?」と聞いてくるが、僕は首を横に降る。 「……どう、話し出そうかな」 お茶を一口飲んでから、あさひさんは困ったようにそう言う。 確かに、切り出しづらいことではあった。 それでも…… 「僕は、Subです。あさひさんがお店に来てくれた時から、Domだって気付いてました」 僕がそう言うと、あさひさんは驚いて息を飲む。 「そっか、俺がそう言うのに疎いからかな……ふーちゃんのことは、気付かなかった」 「僕が一方的に、あさひさんに惹かれたから分かったんです」 隠す事は、もう出来ない。 いっそのこと明かしてしまえば、関係はどうだって出来る。 「惹かれた?」 「あさひさんがあの日、大丈夫ですよって言った声とか、あげた手とか。それがなぜか、気持ち良くて」 「気持ち、いい?」 僕の言葉を反復しながら疑問をぶつけるあさひさん。 自分でも突拍子も無いことを言っているのは承知の上だ。 「あの一瞬で満たされた自分に気付いて、僕はあさひさんのものになりたいって思ったんです」 僕がそう言うと、あさひさんは目を丸くする。 そしてふにゃっと目を細くした後、僕の近くに寄り、ぎゅっと抱きついてきた。

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