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第13話

抱きしめたあと、あさひさんは僕の頭をゆっくりと撫でる。 柔らかい手の動きは、奥から溢れ出てくる幸せを引き出してくれる。 「ふーちゃんが俺に惹かれたように、俺が今抱きしめて、頭を撫でで、よく気付いたねって褒めてあげたいのは……間違いじゃないね」 耳元でぼそぼそ紡がれる声に、頭がぼうっとしてくる。 はい、なんてほぼ吐息みたいな返事は、あさひさんに聞こえただろうか。 今この空間が、今までの人生の中で1番幸せだ。 そう思っていたら、そっと体を離される。 急な終わりに戸惑う僕に、あさひさんは優しく笑った。 「文弥は、俺のパートナーになってくれますか」 キリッとした強さを持った瞳が僕を見つめる。 問いかけなんていらないのに、そう思いながら今度ははっきりと返した。 「はい。僕を、あさひさんのものにしてください」 気付けば勝手にKneelの姿勢になっていた。 心が先走って体まで勝手に動かして、従う気しかないみたい。 そんな俺の姿を見ても、あさひさんは満足そうな顔をする。 「……かわいい。幸せだな、こんなに素直な子に会えるなんて」 「僕も、今までで1番、しあわせです」 * あれからふわふわとした穏やかな空気が流れていたけど、お互いの沈黙で少しずつ冷静さを戻していった。 「約束事はちゃんと決めなきゃね」 「そうですね」 「じゃあ、ふーちゃんのしてほしく事は?」 いきなりそう言われて、僕は唖然としてしまう。 僕の方から意見を聞くなんて……と思いつつ、ぽつぽつ思い浮かぶことを言った。 「……ひどく怒鳴られ続けるのは、怖いです。暴力とか、スパンキングも……無視は、さみしいから嫌です」 「教えてくれてありがとう。俺も体を傷つけるのは嫌だから、そういうのは絶対なし。無視するのは、お仕置きにしてもいいの?」 無視は泣きそうになるけれど、恐怖は強くないから。 そう思って僕が頷くと、あさひさんはよし、と頭を撫でてくれた。 「あとは……怒るときは、ちょっと大声出すかも。責め続けはしないからね」 ちゃんと線引きもしてくれて、ただ安心するだけ。 今は約束の段階だけど、あさひさんは破らないって妙な確信があった。 「あさひさんは? して欲しいことって、無いんですか」 「うーん……俺はさ、基本的に甘やかして、褒め倒して、ずーっと抱きしめてあげたいからなぁ」 「じゃあ、どんなにちっちゃいことでも僕に命令してください!おつかいでも、雑用でも」 僕がそう言うと、あさひさんは少し考えるように顎に手を添えた。

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