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第15話
セーフワードが決まった後も、大まかに約束事を決めていった。
家の中ではコマンドを使うこと、外では対等な関係でいること。
まだ首輪は渡さず、もっと沢山のことを知り合ってから改めて気持ちを確かめ合おう、と。
それから、まるでついでのように告げられた。
「ふーちゃんさ、男の人大丈夫なんだよね?」
「え、あっ……大丈夫、です」
「もし嫌じゃなかったらさ、そっちも考えてよ。俺はふーちゃんのこと大好きだから」
キラッキラの笑顔が、僕をまっすぐ射抜く。
嫌じゃなかったら、なんて……嫌なわけないのに。
よろしくお願いしますの即答で、呆気なく恋人にもなってしまった。
かくして僕たちはパートナーでもあり、恋人でもあり。
新たな関係を始めていくことになった。
「これからもっと約束事は増えるだろうけど……思うことがあれば言ってね」
「いいんですか?」
「いいよ! したい事も嫌な事も言ってくれなきゃ、対等じゃないでしょ?」
対等とか、お互いを尊重する、とか……
少しむずむずするけれど、きっとこれが夢見ていた事なのかもしれない。
“僕”を見てもらえるって、こんなに嬉しい事だったんだ。
「じゃあ、改めてよろしくね文弥」
「はい。よろしくお願いします、あさひさん」
改めてしっかり“文弥”と呼ばれるのは、ドキドキしてしまう。
使い分けられてるなと分かると、今まで付き合ってきた名前ですら特別に思えてくるから不思議だ。
「さて、少し遅くなったけどご飯にしようか!」
ぱちん、と手を叩くあさひさん。
時計を見ると、8時を少し過ぎたところだった。
「ご飯、あの……作りましょうか……?」
外に出ると時間がかかるし、と思って提案をするとあさひさんがパチリと瞬きをする。
そして、うーんと顎に手を添えて少し唸る。
考えるときの癖だ、と数回見て気付いた。
「ふーちゃん作れる人? 中身見て、出来そうならお願いしたいな」
冷蔵庫の中をパッと見ると、一見色とりどりのものが入っているように見えたけれど……
「八百屋さん、ですか?」
「自炊はしないんだけど、スムージーだけ家で作るからさ」
「なるほど。あ、トマト好きなんですね」
野菜だらけで、肉が全く見当たらない。
しかもトマトがある一角を占めていた。
ふ、と思わず笑った後にひらめいた。
「ご飯はありますか? あと、あったかいトマト平気ですか?」
どっちもオーケーと答えたあさひさんに、いけますねと親指を立てる。
「ふーちゃんが頼もしく見える……」
「貧乏一人暮らしの賜物です」
頑張ってきて良かった、と。
あさひさんの素直な表情にそう思った。
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