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第16話

あれからささっと調理して、トマトとレタスのチャーハンが出来た。 あさひさんは大袈裟に目を輝かせて喜ぶから、恥ずかしくなってしまう。 いただきますと声を揃えて言った後、あさひさんが口に運ぶのを見つめていた。 「うま……ふーちゃん凄い」 「ふふ、口にあったみたいで良かったです」 不味い、なんて口にする人ではないと知っているけれど。 やっぱり美味しいと言ってもらえるのは、嬉しいことだ。 「あさひさんは、普段は外食ですか?」 「うん、昼夜は外食がほとんどでさ。調理器具を揃えたはいいけど、全然使えなくてね」 「……怪我すると、危ないですから」 僕がそう言うと、一瞬あさひさんは目を見開いてから微笑んだ。 気付いたら外出時と種類は違うけれど、あさひさんはきっちり手袋をはめている。 商売道具を傷付けるわけにはいかないから、家事だって気をつかうのだろう。 先程流し台には水仕事用のゴム手袋もあったし、使い分けていくつもあるはず。 家でも徹底しているんだ、と感心するしかない。 「あのさ……ふーちゃんが嫌じゃなかったら、ご飯作って欲しいな」 「僕ので、いいんですか?」 「いいの。ふーちゃんのが食べたい」 ダメ?としょげた顔をされると、とてつもなく申し訳ない気持ちになってしまう。 「夜で、いいですか?」 「だと嬉しいけど、仕事の後じゃ疲れてるか」 「いつもそうなので、気にしないでください」 普段から帰れば自分の為にご飯を作って、食べて、それで終わりだから。 「じゃあ、時間合うときに迎えに行っちゃおうかな」 「あ……僕、あのカフェだけじゃなくて。DomとSub交代で、二店舗行き来してるんです」 マスターは昔からの友人とお店を一緒に始めたけれど、友人の方が別店舗でと提案したらしい。 当初からDomとSubへの配慮はあったらしく、交代にすれば物理的に分けやすいから、と。 「へぇ……なんか、どうせ二店舗ならDomとSubで専用でもいい気もするけどなぁ」 「それだと、お客さんを絞っちゃう事になるみたいで」 二つのお店を、どのダイナミクスにも平等に、と。 店員のダイナミクスも看板にメニューと一緒に書いておいてある。 基本的にはSubはSubが店員の日を選んで来てくれる。 「看板か……気付かなかった」 「仕方ないですよ。Subとかパートナーの人達だと、そういうの敏感になっちゃうので」 「断られる所は、まだあるもんね」 トラブルを避けるために、店側がSubを拒否する事がある。 入店出来ても、ただの床なんてことは割と当たり前。 未だ風当たりが強いのが、現実だ。

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