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第17話
お互い話しながらだけど食事は進み、気付けば2人の皿は空っぽになっていた。
洗い物は俺、とあさひさんにお皿をさらわれて、僕は大人しく座って後ろ姿を見ていた。
「……今思えば、あのカフェのラグはKneelしても痛く無いように敷いてあったんだね」
「そうなんです! それに、Sub用に低いテーブルも引き出せるようになってて!」
あさひさんが気付いてくれた事が嬉しくて、つい声を大きくしてしまう。
あの配慮は、僕が初めてお店に行った時からあったものだった。
「ふーちゃん、あのお店の好きなんだね」
「はい。初めて行った時から、ずっと……」
前のパートナーに一度だけ連れて行ってもらった、あの日。
店員さんに「お食事はどちらに置かれますか?」と聞かれて、すごく驚いた。
食べさせるなんて考えはあの人にはなかったから、「こいつの前に」とぶっきらぼうに答えていた。
そうしたら低めの板が引き出されて、目の前にカフェオレが置かれた。
いつも食べ物は、手の届かない高い位置か、寂しい床の上だから。
僕の目の前にあるだけで、とてもキラキラして見えた。
*
「あ、洗ったの拭きますよ」
あさひさんが食器を流して籠に入れ始めたのを見て、思わずそう口にしてしまう。
やっぱり、黙っているのは性に合わない気がする。
「Stay 。これは作ってもらったお礼だから」
「……はい」
はっきりとそう告げられてしまうと、僕は待つしかない。
近くにあったクッションを抱き締めて、終わらないかなと後ろ姿を見つめる。
少しずつ終わりに近づく作業を見つめているのは、焦れったい。
くるり、と振り返ったあさひさんはにこりと僕に笑いかける。
手袋を変えながら戻ってきて、僕の後ろにあるソファーに座った。
「ちゃんと待ってたんだ。Good boy 」
緩い手つきで頭を撫でられ、ぴくりと体が跳ねた。
あさひさんの方に体を向けるよう座り直して、クッションも手放す。
下から見上げるあさひさんは、やっぱり綺麗だ。
「僕、おてつだい、したかったです……」
「作ってもらったのに、申し訳なくて」
「ほめてもらえるだけで、十分です」
「じゃあ、今度からはお願いしようかな。本当は洗い物苦手だから」
そう笑いながら、あさひさんは頭や頬、顎も撫でてくれる。
褒めてもらったこと、これから任せてもらえること。
ゆるゆると幸せな気持ちが溢れてきて、うっとりと目を細めてしまう。
気付けばあさひさんの腿に頭を預けて、足にもたれていた。
「そんな顔して……ふーちゃん、嬉しい?」
「うれしい、です」
どんな顔か、自分じゃ分からないけれど。
嬉しすぎて溶けそうだから、どうでもいいや、なんて。
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