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第19話

翌日出勤すると、マスターときなりくんがにこやかに話しかけてきた。 「ふーくんおはよう。昨日はどうだった?」 「おはようございます。うん……と、あの。色々あって、お付き合いをすることに……」 僕がそう言うと、二人はあんぐりと口を開けた。 そりゃそうだよな、と僕は肩をすくめる。 「お付き合いって、恋人? パートナーは?」 「それも込みで……ただ、パートナーに関しては今後また改めて確実なものに、と」 「なんか、いい感じに収まったじゃん」 きなりくんはそう言い、片方の口角を上げて笑う。 決して嫌な感じじゃなく、ちょっとホッとしたような困ったようなそんな顔。 確かに、きなりくんの言う通り。 拒絶されて関係が終わるわけではなく、また新しく始まった。 知り合いから、恋人・パートナーに。 「僕、あさひさんとなら幸せになれる気がするんです」 根拠は、正直無いけれど。 もうあの時みたいに卑屈に縮こまって生きなくてもいいから。 心配いらないと、二人に胸を張りたい。 二人は、ポンポンと頭や肩を優しく叩く。 それだけで心がふわっと暖かくなった。 * その日の午後、お昼時を過ぎてからあさひさんがお店に来た……けど。 「あさひさん、その格好は……?」 見慣れない、アロハシャツにワイドパンツの組み合わせ。 先ほどまでかけていたサングラスを胸元にかけていて、雰囲気だけだと軽い感じのお兄さんだ。 手には黒いグローブがはめられていて、格好は違えど守るのは徹底しているらしい。 タイプが真逆でも似合ってしまうのだから、“自分”を使う仕事の人は凄いと感心する。 「前にこの衣装で撮影したときに欲しいなーって声かけててね。ちょっと安くしてもらって買っちゃった」 「それで撮影って……普通にモデルさんとしてですか?」 「そ。前から好きだったお店が出す冊子に出させてもらってるんだ」 今日も新作の撮って来たんだ、と笑うあさひさん。 見慣れない姿だからか、いつもと雰囲気が違う。 カウンターに座って頬杖をつくと、ちょっと危ない男の人の匂いがする。 それでもやっぱり、ときめいてしまうのだからどうしようもない。 メニューを置いてカウンターに戻ると、マスターは困惑していた。 「あれ、本当に美作さん? 雰囲気違わない?」 「本物ですよぉ。撮影の時の衣装みたいで」 「なるほど。あれだけ変わるのも凄いな」 その流れで、マスターに料理を運ぶようお盆を渡される。 違うテーブルに料理を運んでいる間、あさひさんはメニューを眺めた後にカウンターの向こうに声をかけていた。 集中はしているけど、どうしても耳はあさひさんの声を拾おうとしてしまう。 ちゃんとは聞こえないけれど、きなりくんが対応している。 本当は僕が話したかったな、なんて。 どれだけあさひさんで一杯なんだろう。

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