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第21話

料理を運び終え、他のテーブルを片付けてからカウンターの裏まで戻る。 その間ちらりとあさひさんを見れば、まぁただ一言格好いい。 あまりにも稚拙な言葉だけれど、それでしか表しようがない。 「きなりくん、あさひさんと何話してたの?」 「え? あー……文弥くん泣かせたらどうなるか分かってんだろうなって脅してきた」 「そんな脅さなくても……」 僕の言葉に、きなりくんはにかっと歯を見せて笑う。 そしてお盆でぽんと僕の頭を叩き、ちらりと視線を動かした後に指をさした。 その先には、こちらを見るあさひさんが手を挙げている。 急いでそこに向かえば、「やっと来た」なんてあさひさんは両手を組んで頬杖をついた。 「ごめんね、追加でさくらんぼのタルトも頼んでいい?」 「はいっ。お持ちしますね」 伝票に追加しながら、キッチンに向かう。 冷やしてあった一つをお皿に載せ、あさひさんの元に運ぶ。 「お待たせしました。これ、僕好きなんです」 甘酸っぱくて、独特の甘さがあるさくらんぼのタルト。 クリーム系は甘くて重いから苦手だけれど、フルーツのタルトはさっぱりしているから好き。 オススメの意味を込めてあさひさんに言うと、「そっかぁ」とにこにこしている。 一人でいた時のキリッとした顔も素敵だけど、話している時のふにゃっとした顔もいい。 「そういえばさ、好き嫌いの話してないよね」 「たしかに。あさひさんの食べられないもの、教えてくださいね」 「うん、もちろんふーちゃんのもね。今日も昨日と同じ時間で終わる?」 「はい。あの……ご飯作りに、お邪魔してもいいんですか?」 「むしろお願いしたい。撮影期間も落ち着いて、しばらく休めるんだ」 休めるという言葉に期待が上がる。 数日後の自分の休みも重なるかな、なんて。 話しながらタルトを切っていたあさひさんが、話し終えたタイミングで口に運ぶ。 口に入れてすぐに目を輝かせていた。 「うま! 俺も好きになった」 「へへ、良かったです」 「……もう、可愛いなぁ」 あさひさんは長い前髪をくしゃりと握り、眉を下げて笑う。 言葉と、その顔にきゅーっと胸が音をたてた。 他のお客さんもいるけれど、それぞれの話に夢中だから僕らのことには気付かない。 人の声と、静かなBGMと。 周りに音は溢れているのに、あさひさんとの空間が特別に出来上がっていた。 「また、迎えくるから。一緒に帰ろ?」 「一人にできないよ」なんて言葉が続くのも、嫌じゃなかった。

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