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第22話

「ゼリーで1ヶ月過ごしてた!?」 仕事終わりにまたあさひさんと二人で帰り、買い物してからの夕飯。 今回は炒め物に肉を使ったけれど、その大半はあさひさんのお皿に載った。 僕らのお皿の上の量は、大きく差があって。 盛った時点であさひさんに驚かれたけれど、好き嫌いの話でさらに拍車をかけてしまった。 「なーんにもできなかった頃はそうでした。今は自炊して、苦手なものも食べるようにしてるんですよ」 「料理出来るのは目の当たりにして知ってるし、食う量少なくても生活できてるならいいんだけど……くだものゼリーで生活してた時期があるっていうのインパクト強すぎ」 一人暮らしを始めたばかりの時にゼリー生活をしていたのは、自分でもまずかったと思っている。 今なら、もうしない。 小さい頃から小食で、給食はいつも残していたくらいだ。 先生から何度も小言を言われて、幼心に傷ついたのは今でも覚えている。 給食はもちろん家での食事も嫌になった時期があったけれど、母さんのおかげでそれを乗り越えられた。 その点に関しては、感謝してる。 「果物はいいですよ、さっぱりしてて。逆に脂っこいものは手をつけるだけでも精一杯です。ケーキも、クリームが重くてあまり食べられなくて……」 「なーるほど、それでさくらんぼのタルトね」「あさひさんは?」 「俺も重いのはあんまり好まないね……あと、豚汁みたいな具だくさん汁ってやつ。なんかごろごろ入ってるのは苦手かなー」 顎に手を添えて、何か思い浮かべているような顔であさひさんはそう言う。 「甘いものは好き。クリームもあんこも」 「へぇ……ご飯だとどうですか?」 「オムライスかな。あとハンバーグとカレーと……とりあえず、子供が好きそうなやつ」 「子供が好きそう」のところであさひさんの声が小さくなる。 視線もそらして、明らかに恥ずかしいって顔をしていた。 「分かりやすくて嬉しいですよ? 夕飯の参考にします」 「……っ、もう、ふーちゃんさぁ」 ソファーに座るあさひさんの足元にKneelしている僕。 あさひさんは手を伸ばして、僕の頭をぐしゃぐしゃと強めに撫でた。 それでも心地よくて、目を細めた。 「ふーちゃん、俺の膝の上においで」 「なっ! そんな……の、恥ずかしいです」 「乗って、Come(おいで)」 嬉しいけど、羞恥心が邪魔をしてくる。 でも、優しい声のコマンドに誘われるように体は動いた。 そろそろと立ち上がり、向かい合う形でさあひさんの膝の上に乗る。 顔が近いのがやっぱり恥ずかしくて、あさひさんの肩に顔を埋めた。 「Good(よしよし)。ははっ!頭あっついなぁ」 後頭部を優しく撫でられる感覚。 褒められたこともこの状況も、嬉しいけど恥ずかしくて。 頭に体全部の温度が持っていかれてるみたいな感じがする。 手袋越しでも分かるのだから、きっと肩にもこの熱は伝わってる。 「うれし、けど……はずかしくて」 言葉がするすると、口から落ちてしまう。

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