23 / 91

第23話

あさひさんの腰に回した手に、力を込める。 細身だけど、引き締まっている体。 理想だよなぁ、なんて押し付けた頭をぐりぐりと擦り付ける。 「ふふ、くすぐったい。そうだ、今週休みは?」 「金曜と日曜は、1日休みです」 「そっか……じゃあ、金曜日。ふーちゃんの1日を俺に頂戴?」 そう言われて、勢いよく肩から顔を離す。 ぱちっとあさひさんと目が合って、首が取れるくらい縦に振った。 望んでたことが、向こうから。 溢れてくる嬉しさに、自然と口元が緩む。 「ありがとう。また後で決めるけど、時間になったら迎えに行くから」 「……待ち合わせが、いいです」 こんなこと、言っていいのかな。 そう思いながら口にすると、あまりにも細くて弱い声になった。 あさひさんは一瞬目を見開いて驚いた後、ふにゃっと柔らかな笑みを浮かべる。 そして僕の頬に手を添えて、いいよと囁くように言った。 「ふーちゃんのこと待ってるのも、楽しみだな」 「僕だって、あさひさんのこと待ちたいです」 なんだ、お互い相手を待つドキドキが楽しみなんだ。 あさひさんも折れそうにない雰囲気で、思わずふっと笑ってしまう。 あさひさんは笑う僕に、短くキスをした。 本当に一瞬のことで、呆気にとられた。 頭が理解するより先に、心臓がいつもより強く打つ。 「あんまり可愛いから、つい」 「あさひさんは、どうして大事なことでもサラッとしちゃうんですか……!」 パートナーとしてはちゃんと話したのに、付き合うことに関してはほぼ“流れ”みたいで。 しかも今のキスだって、不意にあっさりしちゃって。 二人の初めてなんだから、ちゃんと残るものにしたかったのに、なんて。 「ごめん、大切にしたかった?」 「……あさひさんとの、思い出だから。残したいじゃないですか」 「そっか、ごめんね。これから何回でも何百回でもするから、って」 キスは特別じゃなくて、当たり前にしたい。 何となくその言い分もわからなくもない、というかこれから何百回でもするって…… 「決めすぎちゃ、重いかと思ってさ」 そう言いながら僕の顎をすくい、今度は長く触れて、それから啄ばむようにキスをして。 艶やかな唇は、吸い付いてゆっくりと離れて行く。 こんな風にされちゃ、忘れようないよ。 優しくキスされることなんて、今までなかったから。 初めての一回じゃなくて、この時間全部が思い出になる。 僕を見つめる、好きだよって言ってくれているような目も。 その目に映る、僕の今にも溶けそうな赤い顔も。 全部全部、二人だけのもの。 僕も大概重いな、と。 そう思わざるを得なかった。

ともだちにシェアしよう!