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第25話(あさひ)
見ていたのはミステリー映画で、“衝撃のラスト”とか“突然思考がひっくり返される”とか噂になっているものだ。
解決の糸口が見えないまま焦ってくる中盤、展開が大きく動く事件が起こった。
突然かつ緊迫感が増したシーンで、ふーちゃんが息を呑む。
わずかに肩が揺れた気もして、今のシーン、怖かったんだなって。
ふーちゃんの固く作られた拳の上に、そっと俺の手を置く。
一瞬こっちを見てたみたいだけど、俺はスクリーンに目を向けたまま。
だって、恥ずかしいし。
それから物語は加速して最後まで駆け抜けるように進み、事件は犯人逮捕で解決した。
……と言うのは真犯人のシナリオ通り。
一連の事件は上辺では解決したように思えたが、本当に明かすべき犯人は何食わぬ顔で生きている。
真相にたどり着いていないことなどつゆ知らず、刑事もいつもの仕事に……その時に、不気味なくらい電話の音が大きく響いて映像はプツリと切れた。
そのまま物悲しい音楽と共に、エンドロールが流れる。
そこで大きく息を吐き、俺も息をまともにしないまま見入っていたことに気がついた。
手はまだふーちゃんの拳の上で、固いそれを解くように指を滑り込ませた。
ハッとして俺を見たふーちゃんと、目を合わせる。
「すっごい、すっごかったですね」
「だね。もー真剣に観すぎちゃった」
お互いやっと気が抜けたせいか、明るくなった部屋の中でもまだ少しぼんやりしたままだ。
その時、きゅるると可愛らしい音が。
「お腹空いた? 時間的に丁度いいね」
「……はい、終わったら急に」
少し恥ずかしそうなふーちゃんを立ち上がらせて、映画館を出る。
少し歩いた先には、パスタの美味しいレストラン。
特にどこに行くか決めてなかったけど、そこでいいかとふーちゃんに聞けばキラキラとした顔で頷く。
「あさひさんが好きなお店……」
なんて、ふーちゃんが呟くもんだから。
このまま引き寄せてキスでもしてやろうかとも思ったけど、まだ我慢。
店に入って、案内された席に二人向かい合って座る。
じーっと俺を見つめるふーちゃんの考えていることが、顔に書いてあった。
「……嬉しい、あさひさん。僕、どうしよう泣きそう」
「だぁいじょうぶ。ほら、ご飯食べよう?」
手を伸ばしてふーちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
それからメニューを眺めて、これいいね、美味しそうだな、なんて。
余計に泣きそうになっちゃったふーちゃんをどうしたらいいか分からなくて、俺は普通でいることしか出来なかった。
鼻の先を少し赤くしたふーちゃんは、小さな声で相槌を打つ。
それでも笑顔は柔らかいから、きっと、大丈夫。
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